「守り」の自民党に「攻め」の民主党
前回、2005年の「郵政選挙」では、小泉純一郎首相(当時)は郵政民営化に反対した造反議員を公認せず、さらに「刺客候補」まで擁立した。「小泉劇場」の前に野党の出る幕さえない有り様だった。今回、自民党は守りに徹した。前職候補が300人近くいて、新人候補を擁立しにくい事情もあるが、内閣支持率が低迷する中、自民党からの出馬を忌避する官僚候補も目立った。
これに対し、民主党の選挙対策を取り仕切った小沢一郎代表代行は、森喜朗元首相の石川2区や公明党の太田昭宏代表の東京12区など、与党大物候補の地元に女性新人候補を積極的に擁立して心胆を寒からしめた。
政策面でも、マニフェスト(政権公約)で「子ども手当1人月額2万6000円」「農家の戸別所得補償の導入」「高校教育の実質無償化」など、大胆な政策を打ち出した。自民党は「財源が不明確」と批判を強めたが、同党のマニフェストは新味に乏しかった。これは政策立案面でも、長年の政権政党のしがらみが大胆な発想を阻む制度疲労を起こしているためだ。
「政権選択」を訴える鳩山代表
選挙戦では、麻生首相はクールビズ姿で遊説し、「責任力」を連呼した。ただ「私の力不足をおわびしたい」と、まず陳謝から入ることが多く、続けて「政権選択ではありません。政策の選択なんです」「民主党のマニフェストには一行も成長戦略が書いてない」とネガティブ・キャンペーンに重点を置いたが、国民の心には届かず、逆効果となったかもしれない。鳩山由紀夫代表はきちんとネクタイ姿を崩さず、「日本の歴史を塗り替える日がやってきた」と政権選択を訴えた。多用したキャッチフレーズは、アメリカのオバマ大統領にあやかった「チェンジ」だった。
民主党圧勝の308議席
報道各社は世論調査などを基に、「民主、300議席迫る勢い」(朝日新聞)、「民主300議席超す勢い」(読売新聞、共同通信)、「民主320議席超す勢い」(毎日新聞)、と相次いで民主党優勢の予測を伝えた。8月30日の投開票の結果は、この予測通りの民主党圧勝だった。小選挙区では221人を当選させ、比例代表87人と合わせた308人は、自民党の過去最高議席300(1986年中曽根内閣)をも上回った。自民党は119人しか当選させることができず、55年結党以来、初めて第2党に転落した。
小選挙区では、民主党独占県が岩手、長野など8県。これを含む自民党空白県は埼玉、沖縄など13県に上った。与党の大物候補の落選も続出。元首相落選としては63年の石橋湛山、片山哲両氏に次ぐ3人目となる海部俊樹氏のほか、笹川堯総務会長、山崎拓前副総裁、中川昭一前財務相らが討ち死にした。公明党では太田昭宏代表、北側一雄幹事長が国会復帰がかなわず、野党では国民新党の綿貫民輔代表、亀井久興幹事長が落ちた。自民党は選挙に強いベテランが残ったのに対し、民主党を中心に大幅な世代交代と人材の入れ替え、過去最高の54人の女性進出が行われたのも今回選挙の特徴だ。
新政権は課題が山積
選挙結果を受けて、民主党は政権移行の準備に入ったが、課題は山積している。まず社民、国民新両党との連立協議だ。衆議院では議長、委員長を独占した上に過半数を確保できる「絶対安定多数」を占めた民主党だが、参議院では単独過半数に達しておらず、両党の協力が不可欠だ。ただ安全保障政策の違いなど懸念材料もある。9月16日に召集される特別国会で、鳩山由紀夫氏は首相に指名されるが、閣僚人事は最初の関門だ。財務相、総務相、外相には国会議員を充てる方針だ。「国家戦略局」担当相も要のポストとなる。
何よりもマニフェストで表明した政策の実現が難題だ。8月31日締め切りだった概算要求はストップさせた。「国家戦略局」中心の予算編成となるが、その仕組みづくりから始めないといけない。内容的に子ども手当などの財源をどう手当てするか、2010年度予算編成は12月末までのわずか3カ月でやり遂げる必要がある。巨大与党の「数の論理」ではなく、民主党議員一人ひとりの手腕が問われそうだ。