鳩山由紀夫首相は、その勢いに乗って、温室効果ガスの25%削減など一部ではリーダーシップを発揮したものの、発言にぶれが多く、決断ができないなど指導力への疑問が生まれてきた。そんな中で、当初は政策決定への関与を控えていた小沢一郎幹事長の存在感が増し、民主党の政権実態は、鳩山首相と小沢幹事長による「二重権力」状態になりつつある。2010年早々、政権に激震をもたらした藤井裕久財務相の辞任も、両者の板挟みの結果と言える。さらに政権トップの2人が「政治とカネ」の問題で窮地に立たされている。
意欲満々でスタートした鳩山内閣
民主党308議席獲得の総選挙を受けた臨時国会は、09年9月16日召集され、民主党の鳩山代表が衆参両院で首相に指名された。鳩山首相は直ちに組閣を行い、国家戦略担当相に菅直人、外相に岡田克也、財務相に藤井裕久、国土交通相に前原誠司をそれぞれ起用。サプライズは避け、実務型の布陣とした。発足したばかりの鳩山内閣への期待度は高く、内閣支持率は72.0%(共同通信世論調査)と細川護煕政権、小泉純一郎政権に次いで高い好スタートを切った。しかも鳩山首相にとって初の国際舞台となった、ニューヨークにおける国連気候変動問題首脳会議で、温室効果ガスの1990年比25%削減という大胆な方針を表明。潘基文国連事務総長、サルコジ・フランス大統領から高い評価を受けるなど、華々しい外交デビューを飾った。
閣内の調整能力不足が露呈
しかし、国内に帰って内政面の課題に取り組むと、途端に壁にぶつかった。最初の関門は、自由民主党時代に作られた2009年度補正予算の執行停止問題だった。予算編成過程全体を見直す一環だったが、着手してみると意外に停止できない予算が多いことが判明。目標とした3兆円に対して、削減できたのは1.7兆円どまりだった。次に2010年度本予算の編成に取り掛かり、鳩山首相は、「要求大臣でなく、査定大臣として取り組んでほしい」と指示したものの、各閣僚は府省庁の要求を目いっぱいに押し出し、結果として概算要求は95兆円にも膨らんだ。
そこで、仙谷由人行政刷新担当相が率いる行政刷新会議は、予算の無駄を洗い出すため「事業仕分け」に乗り出す。一部では仕分け結果に反発はあったものの、予算の中身を白日の下にさらすという意味で、政権交代を目に見える形にした効果があった。概算要求から約2.9兆円を削減する結果も出した。
しかし、経済界から景気の「二番底」に対する懸念が出て、 09年度第2次補正予算案に取り組んだが、連立相手の国民新党の亀井静香代表(金融・郵政改革担当相)が「10兆円規模」を主張して難航。最終的に7.2兆円で決着し、12月15日第2次補正予算案を閣議決定したが、鳩山首相はじめ官邸サイドの調整力不足も浮き彫りになった。
揺らぐ「内閣への一元化」方針
補正予算案のケリがついたのを受けて、本予算案の編成に戻ったが、最終調整は予想以上に難航。その間、マニフェスト(政権公約)が想定していなかった新たな問題として浮上したのが、地方や各種団体からの陳情の処理だった。民主党の小沢執行部は11月2日、地方からの陳情は都道府県連窓口で受け付け、幹事長室で一元処理するなどの新たなシステムを決定した。小沢幹事長は、地方や各種団体からの陳情を集約して12月16日、重点要望を鳩山首相に突きつけた。マニフェストで約束していた、ガソリン税の暫定税率の廃止について「税率維持」を求め、「子ども手当」に所得制限を導入すべきなど18項目を提示。鳩山首相は、暫定税率維持はのみ、子ども手当への所得制限は受け入れなかった。
民主党側が申し入れた項目は大半、政府内で調整ができず右往左往していた問題だ。小沢幹事長は申し入れの席上、「いまの政府は政治主導になっていない」との苦言まで呈した。やや強引とも言える小沢流の手法だったが、難問にケリをつけたという側面もある。
ただ、政策決定における「内閣への一元化」という方針は大きく揺らぐことになった。鳩山首相の発言が、八方美人的に配慮するあまり決断力が弱く、指導力が発揮できていない現状では、小沢幹事長の影響力が膨れ上がる結果にもなった。その意味で、鳩山・小沢両氏の「二重権力」状態、あるいは「実質小沢支配」の様相も見せ始めている。
2010年年明け早々の1月5日、藤井財務相が「心身ともに疲れた」と、体調不良を理由に辞意を表明したのも、鳩山首相と小沢幹事長のはざまで苦労させられ、屈辱を味わわされたための抗議の意味が感じられなくもない。
鳩山、小沢両トップ秘書に捜査の手
「政治とカネ」の問題は総選挙前からくすぶっていたが、東京地検特捜部の捜査が本格化。鳩山首相については政治資金規正法の虚偽記載容疑で、勝場啓二・元公設第一秘書が09年12月24日在宅起訴され、首相自身は不起訴となった。母親から総額10億円余が提供されていたことも判明した。小沢幹事長には西松建設からの裏金受領が疑われている。政治資金管理団体「陸山会」による東京・世田谷区の土地購入をめぐって、元秘書だった石川知裕衆院議員ら3人が10年1月15日、虚偽記載容疑で逮捕された。小沢氏自身も同23日被疑者として事情聴取され、幹事長続投を表明したものの、地検の厳しい捜査は継続。内閣支持率が1月第1回50.8%、第2回41.5%と急落、初めて支持率と不支持率が入れ替わるなど、政権として最大のピンチを迎えている。