衆院よりひどい一票の格差
衆院小選挙区の一票の格差はよく話題となるが、参院選挙区の一票の格差はさらに輪をかけてひどい。かつては、各選挙区の議員1人あたり人口の最大値と最小値の間の比率(一票の格差最大値)は6倍を超えており、これが長い間放置されていた。1990年代以降、ようやく定数是正が行われるようになり、2013年夏の参院選でも、神奈川、大阪の2選挙区の定数を3から4へと増やし、福島、岐阜の2選挙区の定数を2から1へと減らす定数是正が行われている。それでは、この是正で一票の格差最大値はどれほど減ったのだろうか? 実は、一票の格差最大値は5.12倍から4.74倍へとわずかに縮小しただけである(10年国勢調査の人口で計算)。
このように聞くと、なんでもっと格差を縮小しないんだと思う人もいるだろう。しかし、現行制度の下でさらなる是正は難しい。無理やりな方法だが、2人区の県(宮城、新潟、長野)から1議席ずつ奪い、これを議員一人あたり人口の多い北海道、東京、兵庫にひとつずつ分配することで4.31倍にまで縮小することはできる。しかし、これが限界である。
なぜ定数是正が難しいのか
参院選挙区の一票の格差を4倍以下に小さくできないのは、47もの都道府県に73議席(選挙区定数146人の半数が改選)しか配分できないためである。全国の人口に占める鳥取県の人口割合は0.46%である。一方、73議席のうちの1議席は1.37%である。つまり、鳥取県に1議席を配分すれば、それだけで人口割合の3倍もの議員が割り振られることになる。図表1は、都道府県の人口割合と配分された定数の73議席に占める割合を示している。左側から順に人口の少ない県が並んでいるが、73議席中1議席の比率である1.37%よりも人口割合の低い県が鹿児島以下多数存在していることがわかる。その数24である。
つまり47都道府県のうち過半数の県は、1議席を配分しただけで人口割合以上の議員が配分されることになる。裏を返せば、残りの都道府県のほとんどは、その人口割合に比して議員数が少なくなってしまう。47都道府県への定数配分の結果、自動的に都市部の声は小さく、農村部の声が大きくなる仕組みとなっているわけだ。
自民党のための選挙制度か
一票の格差の問題は、投票価値の公平性という観点から非常に大きな問題である。だが、参院選挙制度の最大の問題点は別にある。その問題とは、農村に支持基盤を置く自由民主党に圧倒的に有利な結果を生む、小選挙区と中選挙区が混合された選挙区制度である。47都道府県のうち、小規模で農村的な県では小選挙区(1人区)、人口の多い都市部の都道府県では中選挙区(2~5人区)となっている。たった1議席を争う小選挙区は、勝者総取りの制度であり、複数の議席を選挙する中選挙区はより比例的な結果を生む。
このため、農村に強い支持基盤を有する自由民主党は小選挙区で勝者総取りで議席を独占的に獲得し、都市部の中選挙区では比例的に議席を獲得する。一方、都市部に支持基盤を置く政党は、農村部の小選挙区ではほとんど議席を獲得できずに自民党に大差をつけられ、都市部の中選挙区では比例的に議席を獲得するため自民党に差をつけることができない。
図表2~4は、1956年以降の参院選結果を選挙制度別にまとめたものである。ご覧のように、1人区で自民党が負けたことはほとんどない。自民党が1人区で大敗したのは89年と2007年のみであり、イーブンだったのも04年くらいである。しかも、自民党の公認とそれに準ずる候補は74%もの議席を占めている。1人区の4分の3は自民党のものなのである。一方、全国区・比例区、中選挙区では過半数の5割を切っている。01年以降は公明党の当選者数を含むにもかかわらずである。
10年の選挙では、1人区での大敗が利いて「ねじれ国会」が生まれ、民主党政権は力を失った。しかし仮に、中選挙区が定数と同数の小選挙区に分割されていれば、あるいは29の小選挙区が合計定数29の中選挙区であれば、選挙結果はどうなっただろうか。定数是正をしなくても、小選挙区で自公が稼いだ13議席差は霧散し、民主党政権が参院過半数を維持していたであろうことは確実である。参院選挙制度は、自民党のための制度なのである。
参院選挙制度改革が必要な理由
このようなゆがみは、単に自民党に有利なだけではない。農村に基盤を置く自民党に対抗して政権を獲得しようとすれば、他党も農村重視の政策ポジションを取らなければならない。07年参院選を前にして、民主党の小沢一郎代表(当時)が「1人区行脚」を行い、農家の所得補償などの政策を打ち出したことがまさにそれである。この結果、政界全体が農村寄りの立場を代弁するようになる。参院選挙制度は、農村の声を拡大する制度でもあるのだ。こうした性質を持つ参院選挙制度は、地方の公共事業依存を許容し、深刻化させる。この点で日本政府のゆがんだ財政構造を生み出すひとつの装置となっている。したがって、このゆがんだ参院選挙制度を改めることが、現在の日本が抱えるさまざまな問題の解決を導く糸口ともなるはずである。
ここで挙げたような問題を解決する新たな制度を想起するのは簡単である。小選挙区と中選挙区の混合を止め、すべてを中選挙区、あるいはすべてを小選挙区にすればよい。比例区で一本化したり、10くらいの大選挙区あるいは比例区に統合するのでもよい。問題の解決方法はひとつではなく、いくらでも提案できる。
したがって、政界がこの問題を理解し、取り組むかどうかが鍵である。問題は、この制度で最大の恩恵を受けている政党が、今現在政権に就いていることである。だが、この点を改めない限り、自民党自体の改革は達成されず、次期衆院選で再び大敗を喫するかもしれない。参院が農村偏重の一方、衆院選は都市部の票の影響も大きいためである。
いずれにしろ、改革にはまず問題構造を理解し、問題意識を共有することが大切である。本稿がそれに少しでも資することができれば幸いである。