日本のジェンダー平等が進まない大きな要因は、政治分野における女性議員や閣僚が少ないことにある。世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ指数では、政治分野で146カ国中139位(2022年)。この背景には、自民党の旧態依然とした「女性認識」があると指摘するのは、『自民党の女性認識―「イエ中心主義」の政治指向』(明石書店)を上梓した、フリーキャスター、ジャーナリストで社会学者の安藤優子さんだ。2022年7月の参院選で、そうした自民党の「女性認識」が女性候補擁立にどのような影響を与えたのか、また、今後、男性優位の政治を変え、女性議員を増やしていくためには何が必要なのか、安藤さんにうかがった。
「比例の女性候補3割」という目標は単なる「数合わせ」
――今回の参院選では、過去最多となる181人の女性候補者が出馬し、全候補者に占める女性比率が初めて3割を超えました。しかし、与党・自民党が擁立した女性候補の割合は約23%にとどまり、女性候補比率が5割を超えた立憲民主党や共産党とは明らかな違いが見られます。なぜ自民党は女性候補擁立に消極的なのでしょうか。
自民党議員がよく主張しているのは、「選挙は当選しなければ意味がない。勝てる候補に男も女も関係ない」ということです。一見、正論に聞こえますが、議員にふさわしい人を選ぶのは政党ではなく、有権者のはずです。女性候補に投票したくても、立候補する女性がいなければ、選択することすらできません。「勝てる候補」に「男も女も関係ない」のではなく、そもそも女性が参入する構造になっていない、それを正すために女性候補をもっと擁立していくことが必要なのです。
2018年に「男女候補者均等法(政治分野における男女共同参画推進法)」が施行されましたが、超党派の国会議員連盟がまとめた当初の法案では、政党が擁立する候補者は男女「同数」とされていました。しかし、自民党内から「同数では“男女の数の完全なイコール”以外は認められなくなってしまう」などの異論が出たことで、「同数」よりも幅のある解釈ができる「均等」が採用された経緯があります。これは、自民党の中にある「政治は男の仕事」という「男性牙城意識」が法律にまで及んだ一例と言えるでしょう。
「男女候補者均等法」は罰則を伴わない理念法ですが、施行後初めての国政選挙となった2019年の参院選で、自民党の女性候補比率はわずか15%。立憲民主党が45%、共産党が55%だったのと比べ、やる気のなさは明らかでした。
一方、今回の参院選で、自民党が「比例の女性候補3割」という目標を立てたこと自体は、前進と言えます。しかし、ある自民党の選挙対策担当者は「こんなのは数合わせだ」と断言。「比例の女性候補3割」という方針を発表した際、茂木敏充幹事長は「自民党は女性と若者がさらに活躍する多様性あふれる社会を目指し、政治の世界も進化をさせていきたい」と述べましたが、こういった理念も、いざ女性候補を探そうとなった段階では、ただ女性候補者を並べるだけでなく、どこまで本気で候補者を探し、当選への支援をしたか、どれほど真剣に女性議員を増やそうとしたかが問われる結果になったわけです。
――自民党は、女性候補者の割合が低い一方、今回の参院選で、全国の小選挙区に擁立した9人の女性候補のうち8人、比例では10人の女性候補のうち5人を当選させています。結局、今回当選した女性議員35人のうち、最も多いのは自民党だということについて、どのようにお考えでしょうか。
それが、長期にわたって政権の座についている自民党の強さということでしょう。
選挙に勝つには「地盤(組織)」「看板(知名度・肩書)」「カバン(資金力)」が必要と言われます。この「3つの“バン”」を持たない場合、さらに女性であれば、知名度が高いタレントやキャスター、あるいは組織のバックアップが期待できるなど、確実な票が見込める候補が擁立される傾向があり、今回の参院選も同様でした。自民党には公募で候補を選ぶ制度もありますが、政治家の資質を備えた一般人女性が手を挙げても、結局、重視されるのは「議員にふさわしいかどうか」より「選挙に勝てるかどうか」です。「地盤」「看板」「カバン」を持つ候補者が優先される現状を見る限り、「当選しなければ意味がない」という自民党の考え方はまったく変わっていないと、私は思います。