犠牲者の大半は子ども
2008年8月に勃発したグルジア紛争で、ロシア、グルジア両軍のクラスター爆弾使用が確認された。非人道性が指摘されているこの兵器によって、また新たな犠牲がもたらされた。クラスター爆弾は、古くは第二次世界大戦で使われ、その後ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争などで使用され続け、最近では06年7月のイスラエルによるイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの掃討作戦の時、レバノン南部で大量に使用された。
クラスター爆弾は、一つの親爆弾の中に数個から数百個の子爆弾が搭載されており、親爆弾が空中で分解することにより子爆弾が広範囲に散布されるよう設計されている。戦闘機やヘリコプターなどから投下される「空中投下型」と、ロケットなどを用いる「地上発射型」に分類されるが、いずれも特定のターゲットを狙うピンポイント攻撃とは異なり、戦闘地域を広範囲に制圧するという特徴を持つ。結果として戦闘行為とは関係のない一般市民を無差別に巻き込んでしまう可能性が高い。
また、子爆弾は着弾の衝撃によって爆発するよう設計されているが、不発弾として実質的に対人地雷と同様の被害をもたらす。不発弾の発生率は種類によって異なるが、数%から数十%といわれている。子爆弾はテニスボールのようなものから、飲料缶のような筒型、片手に納まるびん状のものなど、形態も様々である。そのせいもあって子どもが興味を抱いて手にしてしまう。犠牲者支援団体「ハンディキャップ・インターナショナル」の報告によれば、被害者の98%が民間人で、その大半が子どもだ。
禁止条約ができるまで
クラスター爆弾は対人地雷と同じような被害をもたらす一方、兵器そのものを禁止した国際法は存在しない。対人地雷の場合には、1997年調印、99年発効した対人地雷禁止条約がある。そこで2003年11月、対人地雷の問題で長年、除去や犠牲者支援を行ってきたNGOが中心となって「クラスター兵器連合(CMC)」を結成した。世界50カ国の200を超えるNGO連合体であるCMCは、クラスター爆弾を禁止する条約の制定を求めて各国政府への働きかけを強めていった。一方、国際社会ではCMCや赤十字国際委員会(ICRC)の要請を受けて、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)で議論が重ねられてきたが、様々な国の利害が衝突し、禁止には至らなかった。そこで、CCWを離れて、ノルウェーやアイルランド、ニュージーランドといった諸国が中心になって、クラスター爆弾を禁止する条約作りが始動した。07年2月、最初の会議がノルウェーの首都オスロで開催されたことから、条約作りの過程は「オスロ・プロセス」と呼ばれるようになった。会議を重ねて行き、08年5月に109カ国の賛同を得て「クラスター爆弾禁止条約(通称オスロ条約)」が採択された。08年12月に調印式が行われ、30カ国の批准から半年後に発効することになっている。
オスロ条約では、特定の対象(禁止除外)以外、過去に使用されたことのあるクラスター爆弾の99%が禁止対象となっている。保有するクラスター爆弾は8年以内に廃棄し、除去は10年以内に実施する、直接被害に遭った本人だけでなく、家族やコミュニティーも被害者として支援することが盛り込まれている。
オスロ・プロセスを支えた取り組み
オスロ・プロセスの特徴は、対人地雷の禁止条約を制定した時と同様に、国際的なNGOネットワークが条約作りに深くかかわった点にある。例えば、オスロ・プロセスの各会議の開会式では、主催国と同様にCMC代表として被害者が発言する機会を与えられ、兵器を使用される側の視点が強調された。これは、政府とCMCの協働関係を示すとともに、軍縮を旨とするCCWと、人道主義に立脚するオスロ・プロセスとを差別化する、象徴的な取り組みだったといえるだろう。政府との協働関係が機能した背景には、CMC傘下のNGOが長年にわたってクラスター爆弾問題に取り組んできた実績がある。CMCには、20年以上も人道支援を行ってきたNGOが多数参加しており、よって被害現場の状況に関する知識と経験が豊富だった。元軍人や医師、大学教員、ソーシャル・ワーカーといった多彩な人材が参加していることが、専門的議論を可能にしたことも間違いないだろう。
今後は、オスロ条約が一日も早く発効して着実に履行されること、オスロ・プロセスに参加していないアメリカやロシア、中国、イスラエルといった諸国の参加が課題である。
CCW(Convention on Certain Conventional Weapons)
非人道的な被害をもたらす通常兵器の使用禁止や制限を制定した「特定通常兵器使用禁止制限条約」(1980年採択、83年発効)の略で、条約本体に加え、個別の通常兵器を規制する5つの付属議定書から成る。第2議定書では対人地雷を規制しており、クラスター爆弾についても議定書作りが模索されてきた。アメリカやロシア、中国などの大国も加盟している利点があるが、全会一致方式に阻まれ、合意が困難とされる。
禁止除外
下記の特徴をすべて兼ね備えたものは条約の禁止対象外となる。
(1)一つのクラスター爆弾に含まれる子爆弾の数が10個以下、(2)子爆弾の重さが4kg以上、(3)目標を識別して攻撃する機能付き、(4)電子式の自己破壊装置付き、(5)電子式の自己不活性化装置(例えばタイマーなど)付き