報告書の中で同委員会は開城工団の閉鎖は大統領の一存によるものであり、さらに国務会議(長官会議)での審議や文書での記録など憲法に定められた手続きを無視したものであることを明かした。
金理事長は16年2月の閉鎖当時をこう振り返る。
「胸が痛んだ。単純に工業団地を閉じたのではなく、歴史を閉じたと感じた。『本当にこんなことをしてもよいのか?』、『政府は本当にこれをやるのか?』と思った。政府はすさまじい決断をしたものだ。70年の分断を越えて(00年の)6.15南北共同宣言と(07年の)10.4南北首脳宣言の成果である開城工団を、南北双方で『これだけは政治的に何があっても手を付けない』と合意してきたものを閉じた。惜しい気持ちと……許せない気持ちがあった」
13年4月の一時閉鎖時、南北は8度にわたる交渉を経て5カ月ぶりに再開にこぎつけた。その時に双方は「いかなる場合にも情勢の影響を受けずに、南側の人員の安定的な通行・北側労働者の正常な出勤・企業財産の保護など工団の正常な運営を保障する」ことで合意した。
「分断」を乗り越えるための開城工団
だが、金理事長は、朴槿恵政権に先立つ同じ保守派の李明博政権の時から、どこかで全面中断が来る日を覚悟していたという。
「08年に就任した李明博大統領は、それまでの南北合意を否定し、開城工団の拡充などの約束を履行しなかった。北側は当然、抗議してくるが韓国側は協議に応じなかった。外見上は同じ工団だが、08年以降は『南北が共に運営する』という従来の形ではなく、北側単独の工団だったと見るべきで、正常ではない運営が続いていた」
李大統領が手のひらを返した理由は何だったのか。
「分断の本質と直結するものだ。開城工団を誰が嫌ったのかをよく考え、調べる必要がある。また、当時の政権が開城工団を知らなすぎた。無知が呼んだ政策の失敗という点はあるかもしれない……」
「分断の本質」とは重い言葉だ。南北には分断により成し遂げられないものがあると同時に、分断により維持されているものがある。分断による暴力、分断による利権、分断による支配……これについては執筆中の本で詳しい説明と答えを提示したい。
それではいったい開城工団とは何なのか。外から見たら、月約150ドルの安い人件費で北朝鮮の人々を働かせる単純な工団に見えなくもない。だが金理事長は別の見方を提示する。
「韓国の立場だけを考えずに、北側がなぜ開城工団を開いたのかをしっかりと考えなければならない。金正日(キム・ジョンイル)国防委員長同様、金正恩(キム・ジョンウン)委員長も恐らく、終戦宣言や平和協定が行われても紙上の合意、紳士協定に過ぎないと思っているはずだ。実際に李明博大統領は既存の南北合意をひっくり返した。だからこそ北朝鮮は、経済協力を高度化させることが終戦と平和を担保すると見ているのではないか。なかなか理解できないかもしれないが、北側が望むのは平和だ。韓国を含め海外からたくさんの企業が工団に参加することで戦争が遠のき、平和が担保されるという論理だ。開城工団は南北の和解と平和の象徴だ」
北側は結局、お金が目当てなのではないかと聞くと、そうではないと言う。
「韓国側が北側に支払う金額では、労働者とその家族の衣食住を賄うのは難しい。軍事用に転用する余裕は北側にはない。儲かっているのは韓国だ。韓国との敵対的な関係にもかかわらず、なぜ北朝鮮は資本主義の発信地となるかもしれない開城工団をずっと維持してきたのか。北朝鮮をもっと知る必要がある」
16年2月、朴槿恵政権は閉鎖の理由に「これまで開城工団に6160万ウォンの現金が流入し、昨年(15年)だけでも1320億ウォンにおよぶ。韓国政府と民間の投資額も1兆190億ウォンにも及んだが、これらは核暖冬と長距離ミサイルを高度化するために使われた」点を挙げた。だが、この話に証拠がないことを、前述した韓国統一部の政策革新委員会が17年12月の報告書で明かしている。
金理事長はなおも熱心に語り続ける。
「北側を制裁するために工団を閉鎖したというが、実際は韓国が自ら門を閉ざしたようなものだ。(16年2月の)閉鎖が制裁としての実効性もなく、政策(決定の過程)としても失敗だったにもかかわらず、それをすぐに修正しないのはおかしい」
韓国主導で再開を
現在、韓国の統一部は開城工団再開の条件に「非核化の進展」を挙げている。これについて金理事長は「昨年11月29日以降、約8カ月も核・ミサイル実験を凍結しているし、4月と6月には首脳会談で非核化に合意もした」と北側の譲歩を挙げた。
その上で最近の膠着(こうちゃく)状態における韓国の役割をこう力説した。
「アメリカが北朝鮮との交渉の速度を調節しようとしている中、韓国はドナルド・トランプ大統領の助力となる方策を考えるべきだ。韓国がこのまま『突破(工団の再開)』すれば、トランプ大統領は(北朝鮮との交渉に難色を示す)アメリカの議会やメディアに『韓国はあのように進めている』と説得できる。