政治の失敗-スウェーデンとイタリアの対照的な結果
ただし、積立方式にしなくても、若い世代の将来負担を軽減するためには、賦課方式のままでも、現在の中高年者への給付カットは不可避である。この際、政治的な理由で対照的な結果になった国を紹介しよう。1990年代半ばからスウェーデンとイタリアは類似した年金改革を行い、旧制度に比較して大幅に給付カットをした新制度を導入した。そこで、問題になったのが、旧制度から新制度への移行過程である。どの世代も有利な旧制度にカバーされたいが、そうしたら、財政的不安定性はますます大きくなる。結局、移行過程は旧制度でカバーされている中高年が少ないスウェーデンに比較して、イタリアは中高年のほとんどが旧制度でカバーされていたため、中高年の「逃げ切り」を可能にしてしまった。こうした結果になった最大の理由は、改革時点でのイタリアの連立政権が、中高年、年金受給者によって構成された労働組合、実際には年金組合の政治的影響力を強く受けていたからである。結果、イタリアは、新旧制度の切り替え期間が長期にわたり、旧制度の年金給付額が過大になってしまった。支出抑制が効くのに時間がかかり、21世紀前半のしばらくの期間、不安定な財政状態が続くことになった。以上見たように、社会保障制度改革は、政治の影響を大きく受ける。高齢化のコストをどのように国民が分担するかという難しいテーマが、今後の政治の大きな役割になるのである。次回は、社会保障を含めた日本が抱える諸問題を克服するために政治はどうあるべきかについて述べたいと思う。