10回目となる2009年は、過去最多の158カ国における母親と子どもの状態を分析している。このレポートから、子育て環境を含む日本の女性を取り巻く問題が見えてくる。
子どものためには、まず母親から
「母親になるのにベストな国ランキング」は、世界120カ国以上で地域に根ざした活動を展開しているSCが、世界の子どもたちが抱えている問題を提起するために行っている「State of the World’s Mothers 世界の母親レポート」の一部である。母親の健康や教育と子どもの幸せの間に密接なつながりがあることを知ってもらい、そして国によって圧倒的な格差が存在するという事実を訴えかけることが主要テーマである。子どもの生育環境に関する7項目をベースにした「子ども指標」(Children’s Index)と女性の生活環境に関する8項目をベースにした「女性指標」(Women’s Index)に分かれ、この2つを総合したものを「母親指標」(Mother’s Index)としてまとめている。この母親指標が「母親になるのにベストな国ランキング」である。この15項目は、国連など信頼できる機関の最新データを基にしている。2009年のレポートによると、母親ランキングの上位には例年通り北欧の国が多くランクインし、下位はサハラ砂漠以南のアフリカの国々が占めている。トップと下位の各10カ国では、母親と子どもの健康面や教育、経済状態など、すべての指標において依然、著しい格差が存在していることが浮き彫りとなっている。例えば、ランキングトップのスウェーデンの出産時の妊婦死亡率が1万7400人に1人なのに対し、最下位国ニジェールでは7人に1人。また、日本女性の平均余命は86歳なのに対して、スワジランドの女性は平均的に40歳の誕生日まで生きられない、などの事実が明らかになっている。
では、私たち日本の現状はどうだろうか。今年の母親ランキングでは日本は34位となり、08年の31位から3つ順位を落とした。05年にランキングの対象国となって以来、最低のランキングになっており、06年以降、毎年順位を落としている(05年14位、06年12位、07年29位、08年31位)。
日本女性の豊さと貧しさ
上述のように、母親ランキング(母親指標)は子ども指標と女性指標の総合として成り立っているが、日本のランクは母親ランキングで34位、子ども指標で8位、女性指標で36位となっている。子ども指標では、5歳未満の子どもの死亡率が低いことや、就学率が高いことなどから、08年の6位からは順位を落としたものの、依然、上位にランクされている。実際、5歳未満児の死亡率の低さではトップクラスであり、同等1位のアイスランド、ルクセンブルク、シンガポールやスウェーデンに次ぐ指標を誇っている。これらから見えてくる日本女性は、他のどの国よりも長く健康な生活を健康な子どもとともに楽しむ人生を送っている。この事実にもかかわらず、母親ランキングで低い順位になっているのは、女性指標で低いレベルにとどまっているからである。女性指標で上位国と比べて特に低いものが、1)女性の国政レベルでの参加率、2)男女間賃金格差、3)産休・育休制度がある。これらの指標から日本における女性の問題が見えてくる。
女性の社会参加が、より良い子どもの未来を描く
母親ランキングでスカンディナビア諸国がアメリカやイギリス、日本など、他の先進国よりも上位につけた大きな要因として、女性の社会的地位が確立されている、ということが挙げられる。スカンディナビア諸国では、国家レベルでの女性の政治参加率が40~50%であるのに比べ、アメリカでは17%、イギリスは20%、日本は9%と低くなっている。女性の政治参加は、女性の声を政治に届け、政策方面から女性の状況を改善することを可能にするものである。次に、男女間賃金格差においては、日本は先進国中最下位となっている。男性の賃金を1とした時の女性の賃金は、スウェーデンでは0.84、ノルウェー0.79、オーストラリア0.73に比べ、日本は0.46と低い水準にとどまっている。
さらに、産休・育休制度は、スウェーデンが480日、ノルウェーが約52週と北欧の女性が権利を享受しているのに比べ、日本は14週と短い上に07年からまったく変化が見られない。09年のレポートでは、先進25カ国を対象に幼児教育指標を検証しているが、産休制度等に関する日本政府の助成の不足が指摘されている。今後、労働人口が減少する日本において、特に女性労働力の必要性は明らかである。女性が働く社会環境の整備は、日本の国力を左右する重要な鍵と言える。
このように、母親ランキングでは、日本における女性の社会進出に関する問題点が数字によって明らかになっている。母親を取り巻く環境は、子どもの幸福を大きく左右する。このまま日本の女性指標が低下していけば、現在はトップクラスの子どもの環境にも影響を及ぼすかもしれない。このような母親ランキングの視点を持った政策を強く望むとともに、私たち一人ひとりの意識も高めていく必要があるだろう。
セーブ・ザ・チルドレン
世界最大のネットワークを持つNGO。1919年に設立。現在、世界で28カ国のそれぞれ独立した組織がパートナーを組み、120カ国以上で活動を展開している。90年を迎えた活動は、世界のNGOの代表格として各国政府からもその重要性を認められている。全世界の数少ない団体にだけ認められた、国連経済社会理事会(UN ECOSOC)のNGO最高資格である総合諮問資格(General Consultative Status)を取得している。