ケータイ漬けの子どもたち
子どもたちが携帯電話を使い、通話よりもメールやウェブサイトを利用することが一般化している。携帯電話は今や「電話」というより、多機能情報端末であり、私たち研究者も「ケータイ」と呼ぶことが多い。自分専用のケータイを所持している割合は、小学校6年生で2割台、中学校2年生で4割台、高校2年生では9割以上である。友人が作成したページに書き込みをしたり、自分でページを公開したりした経験をもつ者が、高校生では半数程度にまで増えている。自己紹介を公開する「プロフ(プロフィールサイト)」や、リアルタイムでそのときの気分を短く書き込む「リアル」など、さまざまなサービスを組み合わせて使う者も多い。
ケータイを用いたコミュニケーションには利便性もあり、サイトが一部の子どもには貴重な居場所になっているとも考えられるが、ケータイ利用には多くの問題が見られる。大きく分ければ、生活習慣に関わる問題と、トラブルに関わる問題である。
生活習慣に関しては、メールに数分以内に返信しなければ無視したことになる、という感覚からひたすらメールを気にして返信し続けることや、自分で公開しているページへの書き込みや友人のページの閲覧によって、多くの時間をケータイでのコミュニケーションにとられてしまう、ということが問題である。何よりも、家族との会話、集中して勉強や趣味に取り組むこと、一人で考えること、睡眠などの時間が妨げられてしまう。また、周囲の者と調子を合わせなければならないという同調圧力に支配されたコミュニケーションの中で、本心を出せずにストレスをためてしまうことも問題だ。
トラブルに関しては、ネットでの出会いやもめごとをきっかけとした性犯罪、暴力、詐欺などの被害に遭うことや、「学校裏サイト」やメールを使ったネットいじめなど、子どもが加害者にもなる場合がある。
家庭での見守りとルールづくり
本来、まずは保護者が責任をもって、子どもにケータイを適切に使用させるようつとめる必要がある。しかし現状では、子どもにねだられるがままに買い与え、子どもがどのように使っているかを把握できずにいる保護者が多い。まず注意すべきは、ケータイを与えることによって家族のコミュニケーションが減ってしまうことである。子どもが家でケータイばかりいじってしまい、家族との会話が減ることが起こりがちである。個室で深夜まで子どもがケータイを使い、保護者は子どもが何をしているかを全く知らないこともある。ケータイを与える前にも与えて以降も、意識して家族のコミュニケーションを増やす必要がある。ケータイの利用について定期的に話し合うのもよいだろう。
また、子どもの年齢や能力に合わせた安全対策サービスを契約しておくことも必要だ。幼い子どもであればウェブ利用を禁止し、年齢が高くても18歳まではフィルタリングをかけて、有害サイトへのアクセスを遮断することは必須と考えたい。これまでは安全なサイトも利用できなくなるなど、フィルタリングの使い勝手が悪かったが、最近ではカスタマイズ機能や弱いフィルタリングが提供されるなど、選択肢が増えている。さらには、発信先制限、迷惑メール防止機能、料金制限、時間制限、有料コンテンツ購入禁止などの安全策を子どもの年齢や能力に合わせて契約すべきだ。
そして、ケータイ利用のルールについて話し合うことも重要であろう。料金の制限、トラブルがあったときの報告などについて決めておくことはもちろんだが、特に重要なことは、時間と場所に関するルールを決めることだ。たとえば、「夜10時以降は使用禁止」「夜7時以降は個室での利用禁止」というように、子どもがケータイを使いすぎず、保護者が使用状況を見守れるようにルールを作るべきである。
メディアリテラシーを高める授業を
学習指導要領で情報モラル教育の充実がうたわれ、文部科学省がケータイについての指導をするよう促していることもあり、多くの学校でケータイに関してなんらかの指導がされるようになっている。これまでは、警察や携帯電話会社から講師を招いて子どもに話してもらうというタイプの指導が目立っていた。ケータイのトラブルや利用法に関する知識を伝えるのであれば、こうした方法でもよいかもしれない。しかし、ケータイに関する指導では、子どもたちのメディアリテラシー(メディアを批判的に読み解き主体的に使いこなす能力)を高めることが重要であり、教師が中心となって指導を重ねていくことが必要だ。
最近は、文部科学省配布のDVD「ちょっと待って、ケータイ」やNHKの「ネット・ケータイ社会の落とし穴」シリーズなど、教師が活用しやすい教材が増えている。こうした教材では、10分前後のドラマを子どもが視聴し、話し合いをすることを中心に授業を進められる。子どもたちはドラマを見ながら「それはダメ!」「自分ならこうする」などと言いたくなるので、グループで話し合って全体で発表させ、教師はそれを整理しながら聞くという形で授業が進められる。
子どもが受け身で話を聞くだけでなく、自分たちで話し合い、どうすればよいかを考えることで、メディアリテラシーの獲得が期待できる。そして、学級で話し合うことで、メールの頻度を抑えるなどの取り組みを協力して行ったり、何かあったら教師に相談しようという心構えを持たせられたりもするであろう。学校ではこうした教材を活用して、子どもたちのメディアリテラシーを高めてほしい。