戦争や紛争がある限り、それを伝えるのが使命
イスラム国によって人質を処刑されたアメリカやイギリスでは、殺害されたジャーナリストを非難する意見はほとんど出てこない。「彼らがいなければ、そこで何が起きているのか、私たちは知ることができないではありませんか」という認識は、市民の間で広く共有されている。身代金を払わないのは、それがイスラム国の資金源になるからであり、ジャーナリストの行動を責めているのでは決してない。
また国際人権法の専門家ならば、「国際人権法には、政府に迷惑をかけるという概念はない。政府は国民の生命と安全を守る義務があり、権利の主体は個人である。権利の主体である個人が政府に義務を履行するよう要求するのは当然のことだ」と言うに違いない。
シリアで亡くなった山本美香さんを記念して創設された「山本美香記念国際ジャーナリスト賞」の第2回目の受賞者に、2015年5月5日、スペイン人のフォトジャーナリスト、リカルド・ガルシア・ビラノバ氏が決まり、同月26日に授賞式が行われた。
彼は11年よりシリア内戦の取材を行い、13年の秋、イスラム国に拘束、監禁された経験を持つ。半年後、スペイン政府の交渉により、釈放されている。報道によれば、スペイン政府から数億円の身代金が支払われたようである。その後、彼はふたたびシリアに舞い戻り、北部コバニの攻防戦などの写真を発表している。彼に対してスペイン社会からは「身勝手な行動」などという批判は出ていない。
後藤健二さんの殺害事件は、私たちにも言葉にできないほどの衝撃を与えた。それでも、私の周りには、「戦場取材を止める」と言うジャーナリストは一人もいない。戦争や紛争が起きている限り、それを記録して伝えるのはジャーナリストの仕事であり、特別に「英雄視」されることでもない。みな、リスクは十分に承知している。
われわれは今後も、粛々と自分の仕事を続けていくだけである。