こうした日本の現状を踏まえ、セカンドハーベスト・ジャパンではフードセーフティネットの実現に向けたさまざまな活動を行っています。困窮している人たちに栄養バランスのとれた温かい食事を提供する「ハーベストセントラルキッチン」や、必要なときにすぐに食品が受け取れるピックアップ拠点「ハーベストパントリー」のほか、17年3月には、セカンドハーベスト・ジャパンが拠点を置く東京都台東区浅草橋に「Kids Cafe(キッズカフェ)」をオープンしました。ここでは、食の支援が必要な子どもたちに食事やおやつを提供するだけでなく、宿題のサポートや英語に触れるプログラムなど学習支援を行っています。また、子ども向けの料理教室や外国人ボランティアによる異文化体験なども実施し、子どもたちの成長を応援する開かれたコミュニティスペースとして、近年広まりつつある「子ども食堂」の新たなモデルになることを目指しています。
私は、日本のフードセーフティネットが公共施設や医療・福祉制度の一部としてあるべきだと考えています。みなさんの生活圏にある交番や病院と同じように、食べ物に困ったらいつでも寄贈食品が受け取れる「ピックアップ拠点」を街なかに配置して、健康な生活を維持するために誰もが食料にアクセスできるシステムを作りたい。余った食べ物が大量に廃棄されている日本の現状を見れば、決して実現不可能ではないはずです。
2020年には都内で10万人に食べ物を!
フードセーフティネットの構築には行政との連携も不可欠です。セカンドハーベスト・ジャパンでは2016年12月現在、東京、神奈川、埼玉の90の自治体・社会福祉協議会の相談窓口と連携して活動を進めていますが、人口の多い大都市圏では福祉関係の部署が多岐にわたり、生活困窮者の情報が共有されていないケースが多々見られます。各自治体が貧困対策の窓口で生活困窮者にフードバンクの存在を伝えてくれるだけでもいいのですが、それさえもままならないというのが実情です。
去年、東京都内の自治体と子どもの朝食支援について話し合ったことがありました。その自治体で実施されていた朝食支援は年にわずか10回。私たちはもっと頻繁にやりましょうと提案しました。食品はどう調達するのか尋ねられたので、「セカンドハーベスト・ジャパンが用意します」と答えました。しかし、担当者は「それは難しい」とか「検討してみます」と言うばかりで、こちらが望むような回答は得られませんでした。行政側にもさまざまな事情があるとは思いますが、実際に今、食べ物に困っている人たちがいるという現実をしっかりと見据え、緊急の案件として取り組んでいただきたい。食料支援によって食べることが保障されれば、生活保護受給者や生活困窮者らの就労支援につながる可能性も生まれます。余剰食品を福祉に活用し、困窮者を支援することは福祉予算の削減にもなり、ひいては国全体が潤うことにもつながるのです。
現在、セカンドハーベスト・ジャパンではフードセーフティネットの構築に向けた新たな取り組みとして、「東京2020:10万人プロジェクト」を展開中です。20年までに東京都内において、1年間で10万人に十分な食べ物を提供することを目標にしており、私たちセカンドハーベスト・ジャパンだけでなく、企業、行政機関、宗教団体やNPO法人、個人が一体となって新しい支援の形を作り上げていきます。必要な人に一人でも多く、より多くの余剰食品を効率的に届けるため、既存のシステムや活動の枠組みにとらわれない幅広いアイデアも随時募集中です。同プロジェクトは神奈川、埼玉でも並行して実施し、2020年までに2県で6万人の生活を支えることを目標に掲げています。食べることに困ったら、すぐ近くに頼れる場所が当たり前のようにある。そんな誰もが安心して暮らせる社会環境を目指しています。
私はアメリカ人ですが、日本に住んでいる限り日本が私の国であり、私のコミュニティです。自分の住んでいるコミュニティを少しでも良くしたいと思うのはごく自然なことですし、私がしていることはより良い未来のために私なりに一票を投じる手段です。それは次の世代のための未来ですが、昔の人たちも誇りを持ってこう言うでしょう、「お互いに助け合う、これは日本の最も素晴らしいところです」と。文明とは、人々が自分たちは決してその木陰に座ることがないであろう樹木を植えるところから始まるのです。