組織的な動きが存在することを推測させる理由の一つは、それぞれの条例の文言がかなり似通っているという点である。各地方の特色も見られるが、自民党の「家庭教育支援法案」に沿いつつ、家庭生活や子育て方針により具体的に踏み込んでいる場合が多々見られる。また、「愛情による絆で結ばれた家族」(熊本県・鹿児島県・岐阜県・徳島県・千曲市など)、「愛情で包まれた家族」(加賀市・和歌山市など)、「保護者は(中略)子供に愛情をもって接し」(鹿児島県・静岡県など)と、「愛情」というプライベートな関係性の中で個人の内面に自主的にしか生まれ得ない感情に触れた文面が多いことも特徴である。
「家庭教育支援法案」や「青少年健全育成基本法案」の背後には、「立派な親」をつくる「親学」なる政治活動が存在する。近年「親学」という言葉を耳にしたり、「親学」を掲げる書物を目にすることが増えている。「親学」推進は21世紀初頭から全国的に展開するようになったものであり、2012年4月に、超党派の国会議員による親学推進議員連盟結成(結成当時の会長は安倍晋三氏)の際にその政治性を顕わにした。「親学」と日本会議の関係も深い。
「親学」推進運動の中心をになう「表看板」が高橋史朗氏や木村治美氏である。高橋史朗氏は、日本最大の「保守」勢力として話題となっている日本会議のメンバーであり、歴史教科書問題、戦後教育を自虐史観として批判、ジェンダーフリー教育・性教育バッシングなどでも活躍してきた人物だが、近年は親学、家庭教育再生に注力している。
「親学」関係の書籍を読めば、いじめ・ひきこもり・自殺・少年犯罪・虐待・不登校・学級崩壊・発達障害など、子どもが直面する問題はすべて、親の自覚や知識そして愛情のなさゆえだと、保護者を責めるメッセージに満ちている。とりわけ、母親の責任を重視し、「三歳児神話」や「母性愛神話」のように、母親を追い詰める脅迫的な言説が目につく。しかし、「親学」推進者は、すべての「日本人」はかつての伝統的な子育てを思い出すために、「親学」を学ぶべきだと説く。