1 勤務間インターバル制度と深夜労働の回数制限制度の導入
2 労働時間を1カ月または3カ月の期間で一定時間内とする
3 1年に1回以上継続した2週間の休日を与える
4 一定範囲(時間外労働が何十時間を超えたなど)の従業員に臨時健康診断を実施する
この4つの選択肢からどれか1つを実施することが企業側に義務付けられていますが、多くの企業は、健康診断を受けさせればいいだけなので4を選ぶと考えられます。しかし、高プロの労働者にしてみれば、健康上の問題があると診断され、それが悪い評価につながることを恐れて、健康診断を受けない人も出てくるでしょう。また、労働者に健康上の問題が見つかった時に、適切な対応を取ることが企業側に義務化されているわけでもないのです。
健康確保措置としては、その他「年間104日以上、かつ4週間で4日以上の休日を与えること」が示されています。年間104日は週休2日にあたりますが、これでは夏休みも年末年始の休みもありません。それに週休2日制は既に社会に定着しており、高プロに特化した措置とは言えません。
これでは無制限の長時間労働が合法化されることになり、心身の健康を害したり、過労死に至る事態さえ想定されます。
「高プロ」が実際に導入されると何が起きるのか
この記事が公開される時点での国会の様子や報道から判断するに、高プロの問題点や危険性は、まだしっかりと国民には伝わっていないと私は思います。
高プロの対象となる労働者は、業務と年収で定めるとされています。
まず業務については、「高度で専門知識を必要とする」業務が対象となっています。金融商品の開発業務、ディーリング業務、市場アナリスト、コンサルタント、研究開発業務といった5業務が政府からは挙げられていますが、これらはあくまでも例示であって、今後どこまで適用になるのか分かりません。
過去の実例としては、1986年施行の労働者派遣法でも、最初は高い専門性を有する13業務に限られていました。ところが、26業務、28業務と拡大され、約30年かけていまや原則全ての業務に対象が広がっています。しかも、高プロを適用する業務は、厚生労働省の省令で決めることになっているので、施行後は国会での議論を経ずに、省令だけで簡単に変えられてしまうのです。
また、年収は、平均年収の3倍を上回る1075万円が基準になるとされています。しかし、これも厚労省が提出した法案では「厚労省の省令で定める額以上」となっており、1075万円はただの目安に過ぎません。
以前、経団連は「年収400万円を超えればホワイトカラー・エグゼンプションの対象にしたい」と明言しています。一度導入されてしまえば、経済界の要請によって年収要件がどんどん引き下げられ、「一部の年収の高い人」だけの制度ではなくなる恐れは大いにあるのです。
労働者にとっては一切得にならない制度
私がここで指摘したいのは、高プロは労働者にとっては何の得もないということです。高プロに関する誤解は多々あって、インターネット上には「専門性の高い一部の職種に対して、雇用主が決めた一定額の成果報酬を払う制度」と説明しているものがありました。けれども、法案にはどこにも「成果報酬」などという記述はありません。「一部の労働者を労働時間規制の適用から除外する」旨の内容が書いてあるだけです。
多くの人にとって、高プロは「自分には関係ないが、能力の高い人が成果に応じて高い収入を得られる制度」という認識だと思われます。ですが、労働時間が長時間化するだけで、どれだけ成果を上げても年収は契約時に既に決まっています。得をするのは企業側であって、労働者側にはデメリットしかないのです。対象業務が広がり、年収の基準がどんどん低額になり、この制度が多数の労働者に適用される日が来るかもしれないことを分かってほしいと思います。
高プロへの不安や懸念に対し、政府は「労働時間を自ら決める能力のある労働者を対象とする制度だ」と強調します。「適用には本人の同意が必要で、企業側が長時間労働を強要することはない」というわけです。しかし、いったん高プロに同意してから、専門ではない仕事を押し付けられて、長時間労働を余儀なくされるようになった場合に、果たして労働者側から「こういう矛盾を見直してほしい」とか、あるいは「高プロをやめます」と言えるでしょうか。自分の仕事に高いプロ意識を持っている人でも、労働者としての権利に精通し、しっかり企業側と交渉出来るとは限りません。
自民、公明、維新、希望の4党は法案の修正協議を行い、高プロを適用された労働者が撤回する手続きを定めることで合意、厚労省へ検討を要請しました。それでも、労使の力関係からいって現実に撤回するのは難しいでしょう。
国会会期末まで私たちは諦めてはいけない
働き方改革一括法案は衆議院を通過(5月31日)したのち、参議院でも議論されていきます。主要野党は、参院でも高プロの法案からの削除を求めるはずですが、厳しい状況であるのは確かです。「働き方改革国会」と銘打って、今国会中の成立を目指す政府に押し切られる確率は高くなってきました。
だからといって、希望を捨ててはいけないと思います。高プロはここまで述べてきたように、いろいろな問題をはらんだ制度です。参院の委員会でも野党の議員が引き続き追及することで、厚労大臣は苦しい答弁をせざるを得なくなるでしょう。それは政府の横暴に歯止めを掛けることにもつながります。
この法案が成立したとしても、参院での議論の内容次第で附帯決議が付く可能性があります。例えば「施行から3年後には実態がどうなっているのかを調査し、調査に基づいて法を見直す」とか「労働政策審議会において調査結果を検証する」といった附帯決議がなされれば、そこから再度議論していくことも考えられます。そうすれば制度を改善することが十分可能になるのです。
高度プロフェッショナル制度
(法律案概要)職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者が、高度の専門知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員 会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除 外とする。