さらに、2018年2月28日付で、和田雅樹・法務省入国管理局長(当時)により「仮放免を許可することが適当とは認められない者は、送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」との文言を含む指示が、収容施設の所長や地方入管の局長に下され、より一層、仮放免が許可されにくくなった。
難民認定の制度改革が必要
今回の専門部会の提言の、最大の特徴であり問題点であるのが、国外退去に応じない場合の罰則創設(退去強制拒否罪)や、現在は認められていない難民認定申請者の送還を可能にする例外規定を設けようというものだろう。
「退去強制拒否罪の創設については、私は強く反対します。『正当な理由なく』国外退去に応じない者に対し罰を科すとしていますが、何が『正当な理由なく』なのかが、抽象的です。送還忌避者とされる人々が、日本から国外退去することが困難である事情は様々であり、一定期間の経過後に一律に罰則が適用されるような制度は適当ではありません。罰を科しても、刑務所と入管収容施設を行き来する状況を作り出すに過ぎず、刑罰の実効性があるとは考えられません」
また、今回の専門部会の提言では、ノンルフールマン原則に基づく「難民認定手続き中の強制送還の禁止」を前提にしながらも、複数回、難民認定の手続きを行っている難民認定申請者を、「難民認定の制度を濫用している」として送還の対象にできるようにすることが、盛り込まれている。
「この難民認定手続き中の送還禁止の例外を設けることについては、難民認定率が国際水準と乖離し、難民認定の質的向上が図られている中では、時期尚早です。例えば、難民認定の複数回申請が最も多いトルコ出身者については、過去、日本においては認定実績はありません。ですが、入管が参考としている、米国、英国、オーストラリアのいずれもがトルコ出身者に難民該当性のある者が多数いることを認めており、トルコ出身者の一次審査での難民認定率も、2018年のUNHCRグローバル・トレンズ(国連難民高等弁務官事務所の年次報告書)によると、それぞれ米国で75%、英国で52%、オーストラリアで75%です。難民認定の複数回申請回数では、トルコの他、ミャンマー、ネパール、スリランカ、パキスタンが多く、これらの国々の出身者は国際的に難民性が高いとされています」
つまり、日本の難民認定審査は、適切に行われているとは言い難いのだ。そのような現状において、複数回申請だからと言って、庇護すべき真に難民性の高い申請者と、制度を濫用している申請者を、入管側が判別できるかは、極めて疑わしい。
「難民の判断の基礎となる情報について日本独自の情報はほとんどなく、外国の各国情報に立脚し、難民条約の基準に沿っています。そのため認定の結果はそれらの根拠となる情報や基準と類似性を持つはずですが、実際は差が生じていて、その原因が正しく分析されていません」
そもそも、法務省・入管の定義する難民条約上の「難民」の概念は、政治的な対立で命を狙われた難民(=政治難民)を主たる対象としており、ただ紛争から逃れてきた難民は軽視するという、極めて狭義なものだ。
「難民認定手続きの際に濫用、誤用、目的外、という言葉が使われますが、この手続きは難民に限定されず補完的保護や人道上配慮を取り込んでいます。法務省・入管の定義での『難民』以外も元々難民認定制度の中に含まれているのです。
つまり、難民認定審査が適正に行われることが極めて重要です。難民認定制度の人的・予算的な拡充も必要ではないでしょうか」
在留特別許可は子どもを主体に
難民認定以外でも、在留特別許可のあり方も見直されるべきだろう。在留特別許可は、個々の外国人ごとに、家族状況や生活状況、素行、内外の諸情勢、その他諸般の事情等を総合的に判断して、日本での在留の可否を法務省が決定するというものであるが、今回の専門部会では、その基準の明確化も論議されたのだという。
「入管サイドと当事者/支援者サイドで基準の明確化の意味合いが違い、入管サイドは在留特別許可を絶対出せないものを明確化することにウェイトがあります。家族関係や子ども等入管サイドと当事者サイドでの共通認識が得られている方向で基準が明確化されれば、日本での滞在を求める外国人の方々を救えるようにできるかも知れません。
在留特別許可において、私が気になっているのは、子どもとか家族とかが(在留特別許可の可否を判断する)要素として弱いことです。例えば、現状では子どもの養育等が考慮すべきものとされていますが、子どもが主体となっていません。しかし、国連の児童の権利条約では、子ども自身の最善の利益が尊重され、国内法でも、児童福祉法は条約に沿って、生活の保障、健やかな生活が子どもたちの権利として保障されるとしています。今や、日本は国際結婚が増加するなどして、外国人児童だけで約10万人が日本にいると言われています。多くの外国人が日本に定着し、国籍を超えて家族が広がっている日本の社会の変化にあわせ、入管法も改正される必要があります」
収容のあり方を問い直す
専門部会では、入管関係の人権状況を改善しうる議論もあった。
「提言には『一定期間を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを設けることを検討する』という文言が入りました。現在の制度では、一旦、収容されると送還されるまで、期限なく収容されてしまいます。仮放免がなかなか許可されず、もし仮放免されても、それがわずか2週間と短いことも多い。また条件違反がなくても再収容されてしまうのがほとんどです。自由が制約される期間が数年にも及ぶというのは、限度を超えています。
ノンルフールマン原則
迫害を受ける恐れのある人を、生命または自由が危機にさらされる恐れのある国に送還してはならないという国際法上の原則。