2022年、世界各地で未曽有の気象災害が相次ぎ、開発途上国を中心に、被害も前代未聞の規模となった。11月にエジプトで開催されたCOP27(気候変動枠組条約第27回締約国会議)では、大洪水に苦しんだパキスタンの首相など開発途上国の首脳から先進国に対し、気候変動の悪影響による「損失と損害」に特化した資金支援を求める声が上がった。
大洪水、大干ばつ、超巨大ハリケーン……加速する気候危機にともない、頻発する「超」異常気象を前に、私たちは何をするべきなのだろうか。水ジャーナリストの橋本淳司・武蔵野大学客員教授に解説していただいた。
近年の「水」にまつわる「超」異常気象
2022年6月中旬から8月後半にかけてパキスタンで洪水が発生し、国土の3分の1が冠水した。各地で土砂災害が発生し、死者は約1700人、被災者は約3300万人に上った(10月9日現在[*1])。世界各地で発生する極端な気象イベントの分析を行う国際研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」は「地球温暖化の影響で雨の激しさが最大75%増加」という評価を公表している。2022年8月のパキスタンの降雨量は例年の3倍以上であり、とりわけ南部シンド州や南西部バルチスタン州では、それぞれ例年の7倍、8倍の雨が降った[*2]。
洪水が発生したのはパキスタンだけではない。4月には南アフリカ共和国東部のクワズールー・ナタール州、5月にはブラジル北東部、インドのアッサム州、7月にはオーストラリアのシドニーなどで大きな被害があった。
多過ぎる水に悩まされた地域がある一方で、少なすぎる水に苦しむ地域もあった。インド北部では3月中旬から高温になり、5月中旬、ウッタルプラデーシュ州では50℃近い気温を観測。平均降雨量は観測史上3番目に少なく水不足が深刻になった。じつは前述のパキスタンでも同時期に50℃を記録し、山岳地帯で氷河湖が決壊した。これが洪水発生のもう1つの原因と考えられている。記録的な高温は欧州でも観測された。ノルウェーのバナクでは北極圏としては異例の32.5℃を記録。フランス、スペイン、ドイツ、オランダなどで気温が40℃近くになり、47℃を記録したポルトガルでは1000人以上の死者が出た。欧州委員会は8月、「過去500年で最悪の干ばつに直面している」と指摘している。
加速する気候危機――私たちは「自己破壊の連鎖」の渦中にいる
さまざまな気候変動や災害の増加を示す報告も相次いだ。2022年5月の世界気象機関(World Meteorological Organization:WMO)の発表は、これらの災害を予見させるものだった。それは「温室効果ガス濃度」、「海面上昇」、「海水温度の上昇」、「海洋酸性化」という気候変動に関する4つの指標が2021年にすべて最高値を更新したというものだった[*3]。
同年7月の欧州の熱波に関する記者会見では、WMOのペッテリ・ターラス事務局長が「われわれは大気に大量の温室効果ガスを送り込んだ。まるで運動選手の能力を高めるドーピングのようだ」と述べ、地球温暖化が熱波の強度や頻度の増加につながっていることを警告した。地球温暖化で気温が上昇すると、蒸発する水の量、空気中や地表に含まれる水の量が変わり、雨や雪の降り方が変わる。これが気候変動であり、干ばつや洪水という形で私たちの生活に影響を与えるのだ。
2022年4月には国連防災機関(United Nations Office for Disaster Risk Reduction:UNDRR)が「自然災害の世界評価報告書」(GAR2022 Report)を公表[*4]。「2030年までに自然災害の発生は世界全体で1日当たり1.5回、年間で560回に達する見通し」としている。ニューヨークの国連本部で報告書を発表したアミーナ・J・モハメド国連事務次長は、「世界は、生活、建築、投資の方法に災害リスクを組み込むためにもっと努力する必要がある。努力を怠っていることが人類を自己破壊の連鎖に陥らせている」と述べた。「自己破壊の連鎖」(a spiral of self-destruction)とは、人類が地球温暖化を軽視した無謀な開発によって自ら災害を生み、苦しんでいるということだ。
水害、干ばつは「不公平な災害」
人類が災害を生み出した皺寄せは、とりわけ開発途上国に集中する。