ケータイの機能はパソコン並み!
PDAと呼ばれるジャンルの電子機器がある。パーソナル・デジタル・アシスタントの頭文字をとったもので、スケジュールやメモなどを管理するために使われ、日本語では電子手帳として親しまれてきた。だが、現代では、携帯電話がその多くの機能を横取りし、単体のPDAは次第に使われなくなってきている。また、携帯電話そのものも、いわゆるスマートフォンとして、よりPDAに近い役割を与えられつつある。仕事はともかく、個人の普通の暮らしには、パソコンはいらないんじゃないか、という考え方もある。せいぜい紙の手帳代わりになれば、それでいいというなら、携帯電話のPDA機能が、十分すぎるほどの機能を提供してくれる。実際、それで予定などを管理している方も、少なくないと思う。
電子機器としての携帯電話は、すでにパソコンと同じ構造になっている。ディスプレーを持ち、キーボードが用意され、内部ではマイクロプロセッサーが、メモリーを使って懸命にソフトウエアを動かして、データを処理している。これは、パソコンが稼働する仕組みとまるで同じだ。
ユーザビリティーに欠けるケータイ
では、携帯電話とパソコンは何が違うのだろう。それは、プロセッサーの処理能力と圧倒的なメモリーの量の差、そして、広大なディスプレー空間にある。身の回りのデジタル情報は、肥大化する一方で、その処理には高い処理能力が必要になってきているが、それでも力をもてあまし気味になるほど、パソコンは高性能化している。そして、もてあました処理能力は、ユーザー体験の向上のために使われている。早い話が、誰にでも直感的に、そしてたやすくパソコンを使えるように、グラフィックスやアニメーション、サウンドといったナビゲーションを多用し、使っていて気分がよいとか、打てば響くようなレスポンス、やりたいことの発見のしやすさなどを向上させているわけだ。
ちょっと考えてみればわかるが、たとえば地図を見たいとしよう。携帯電話のディスプレーと、パソコンのディスプレーで見たとき、どちらがわかりやすいだろうか。ちょっとニュースサイトをのぞくにしても、その日の主要ニュースを一目で見渡せる広い画面は、一覧性も高い。実は、携帯電話は、ユーザー体験を犠牲にして、必要な機能を詰め込んでいるにすぎないわけだ。
ケータイとパソコンが連係すると
もちろん、携帯電話を敵視しているのではない。携帯電話とパソコンは敵対するものではなく、互いに補い合い連係するべきものであるといいたいのだ。たとえば、帰宅途中の電車の中で、携帯を使って読み始めた小説がおもしろくて、家に到着しても、その続きを読みたいと思ったとしよう。そのまま携帯で読み続けるよりも、パソコンの大きくて美しい画面で読める方がいい。自宅に戻ってパソコンに携帯をかざすと、その存在をパソコンが検知して、続きが画面に映し出されるようなイメージだ。もしかしたら、携帯をマウスとして使ってもいいかもしれない。お好みなら、携帯のボタンで文字入力をしてもいい。
そうして小説の続きを読んでいるうちに、パソコンは、出先で携帯に入力したメモや新たな予定、撮影した写真やムービーなどを吸い上げてバックアップする。コンビニで使ったオサイフケータイの明細や、移動に使った電車代などのリストもデータとして記録する。つまり、常に、携帯とパソコンは同じデータを保持する。だから、パソコンが壊れたり、携帯を紛失しても、もう片方が無事なら大丈夫だ。
コンセプトは「パソコンとケータイの融合」
楽しむコンテンツは、小説である必要はない。文字のニュースでも、バラエティー番組でも、お気に入りのアーティストの音楽だってかまわない。
そして、パソコンでも携帯でも同じメールアドレスを使い、新着メールは両方に届く。だから、そのときに応じて好きな方で読み書きすればいい。つまり、携帯とパソコンを別の機器として機能させるのではなく、パーソナルデジタルシステムとして複合的に利用することができれば、今よりも、ずっと豊かな暮らしが見えてくるはずだ。
おそらく、パソコンと携帯を結ぶためのキーとなるのは、オサイフケータイとして普及しているFeliCaの技術だ。買い物ができて電車にも乗れる非接触のICカード技術だが、そのリーダー/ライターを内蔵したパソコンも増えてきた。今後、携帯とパソコンを連係させるキラーアプリケーションが登場するとすれば、FeliCaがその橋渡しをするはずだ。
実は、こうしたシステムの実現に、技術的なハードルは何もない。その気になれば、明日からでも実現できそうなことばかりだ。というよりも、一部にはすでに実現できていることだってある。誰にでも想像ができるようなこんな簡単なことが、まだ、現実のわかりやすいシステムとして手に入らないのは、どこかで何かのバランスが不均衡な状態に陥っているからだ。
経済的な要因かもしれないし、制度的なものかもしれない。あるいは、政治的なものがからんでいるかもしれない。そこを突破することができれば、携帯とパソコンが連携することで未来は、ずっと豊かになりそうなものなのだが。
スマートフォン
(smart phone)
パソコンとほぼ同等の機能を有した携帯電話。メールなどのデータ通信機能、ブラウザーを利用したインターネット利用が可能であるとともに、エコマネー、電子決済機能をもつものもあるが、最近では携帯電話とスマートフォンの差は、ほとんどなくなっている。
FeliCa(フェリカ)
ソニーが開発した非接触型ICカード技術で、国内ではデファクトスタンダード(事実上の標準規格)となっている。不揮発メモリーと無線チップを埋め込み、端末に接触しなくてもデータ交換が可能。