日本映画21年ぶりの逆転
2007年1月末に06年の映画統計が発表された。すでに新聞などで大きく取り上げられているが、06年の映画産業で特筆すべきことは、日本映画が外国映画のシェアを21年ぶりに上回ったことである。06年の日本映画界全体の年間入場者数は1億6427万人で、05年の1億6045万人より2.4%上回った。
興行収入(以下興収)は全体で2025億5400万円で、05年の1981億6000万円を2.2%上回った。
映画館(スクリーン)数は3062と05年の2926から136増えた。
21年ぶりに日本映画が上回った興収の内訳は、日本映画が1077億5200万円で、05年対比31.8%のアップとなり、外国映画は948億0200万円と05年対比で18.5%のマイナスとなった。
また映画の公開本数は821(日本映画417、外国映画404)本と、05年の731(日本映画356、外国映画375)本に対し、なんと90本も増えた。
ここ数年来の日本映画の勢いは、06年さらに加速したと言える。
05年は「交渉人 真下正義」(東宝/42億円/フジテレビ)、「NANA」(東宝/40億3000万円/TBSテレビ)、「容疑者 室井慎次」(東宝/38億3000万円/フジテレビ)、「電車男」(東宝/37億円/フジテレビ)、「ALWAYS 三丁目の夕日」(東宝/32億3000万円/日本テレビ)といった興行収入30億~40億円のヒットが出たが、06年は「ゲド戦記」(東宝/76億5000万円/日本テレビ)、「LIMIT OF LOVE 海猿」(東宝/71億円/フジテレビ)、「THE 有頂天ホテル」(東宝/60億8000万円/フジテレビ)、「日本沈没」(東宝/53億4000万円/TBSテレビ)、「デスノート the Last name」(ワーナー/52億円/日本テレビ)、「男たちの大和/YAMATO」(東映/50億9000万円)と、50億円以上の作品にヒットが拡大したからだ(注:カッコ内には企画・製作に参加したテレビ局を併記した)。
外国映画の不振
しかし、外国映画のほうが大ヒットの規模は大きいのにどうしてと思う人もいるだろう。確かに「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」(ワーナー/110億円)、「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」(ブエナビスタ/100億2000万円)、「ダ・ヴィンチ・コード」(SONY/90億5000万円)、「ナルニア国物語」(ブエナビスタ/68億6000万円)、「M:i:III」(UIP/51億5000万円)とヒットのスケールは大きい。
ところが、これら超が付く大作以外の中クラス以下の作品がまったく振るわない。
それは、興収10億円以上の作品が日本映画は28本あったのに対し、外国(アメリカ)映画は22本にとどまったことからも分かる。
つまり、今のハリウッド映画はホームランかそうでなければ三振という、打率の低いホームラン・バッターのようであり、一方、日本映画はイチローのような高打率の中距離ヒッターのようなものである。
日本映画ブームは本物なのか
日本映画のシェアは、2002年には27.1%まで落ち、史上最悪の結果となった。それからわずか4年で、シェア50%を上回るまでに回復したことは驚異であり、日本映画の復活という言葉が真実であることを数字が証明したことになる。この推移は、を見れば、より明らかになるであろう。
結果からすると、日本映画産業は絶好調だが、内実はかなり問題をはらんでいる。
、を見ると分かることだが、01年に映画観客数は1億6300万人で、スクリーン数は2585だったが、06年、映画観客数は1億6427万人で、スクリーン数は3062と増えている。
スクリーン数は増えているのに、映画人口は微増、微減で推移しているのだ。
つまり、スクリーン当たりの観客は減少していることから、映画館ビジネスは向かい風と言える。
もっと明白なことは、全体のパイが横ばいのなかでの日本映画の復活は、外国映画の失墜ということなのである。
特に厳しい状況に直面しているのがハリウッドの日本支社である。
日本にはUIP(ユニバーサル、パラマウント)、WB(ワーナー・ブラザース)、20世紀フォックス、ブエナビスタ(ディズニー)、SONY(コロンビア)と5つのハリウッド映画の配給会社がある。
この5社全体の02年の興収は932億8640万円あったが、06年には837億6302万円で、ここにはWBが配給した日本映画「デスノート」2本と「ブレイブ ストーリー」の3本合計約103億円が含まれているので、純粋なハリウッド映画では約200億円もマイナスとなっている。
外国映画の不振はハリウッドの支社ばかりでなく、外国映画の輸入配給会社にも大きな影響を与え、老舗の日本ヘラルド映画が角川の、ギャガ・コミュニケーションズがUSENの傘下となった。
日本映画躍進の鍵
日本映画の好調と外国映画の不調にはいくつかの理由がある。簡単に説明すれば、日本映画の場合、1990年代までは、映画産業が独自の企画で製作し、その作品はどちらかというと作り手側の思いが偏った傾向にあり、観客からそっぽを向かれていたのであるが、近年、テレビ局が企画に参加することによって、観客の求めるものが提供されるようになったということである。
一方、ハリウッド映画は、全体の60%が海外の売り上げによるものなので、より分かりやすい企画が求められるようになった結果、SF、アクション、リメーク、テレビシリーズの映画化と画一化してしまい、日本の観客には受け入れ難いものが多くなったということだ。
かつてのオードリー・ヘップバーンや数年前のジュリア・ロバーツ、メグ・ライアンが出演したようなデート・ムービーは、今や日本映画に取って代わられた。
勝者と敗者の二極化
それでは日本映画界は、関係者みな大喜びのハッピーな状況なのだろうか。実は、日本映画界は勝者と敗者の二極化が進んでいる。
日本映画全体の公開本数が417本という異常な本数のなかで、東宝、松竹、東映の3社が配給した日本映画は64本で全体の15.3%でしかないが、一方、日本映画の興収1077億5200万円のうち、東宝、松竹、東映の大手3社の興収は約850億円にのぼり、全体の80%弱を占める。
特に、東宝1社で587億7720万円をあげ、日本映画全体のなかでも東宝は約54%を占める一人勝ちとなっている。
この東宝の強さは、強力な劇場ネットワークに企画開発力がピタリと噛み合った結果であろう。
しかし、今後の日本映画を担う人材の育成を考えると、この偏った状況は必ずしも健全な環境とは言えない。
そんななかで、大手ではない配給会社から「フラガール」(シネカノン)、「博士の愛した数式」(アスミック・エース)といった興収10億円を超える作品が生まれたことの意味は大きい。
とはいえ、2007年の映画界は外国映画、日本映画ともに業界再編など、大きな波にさらされるであろう。