中国のワールドカップ
2007年9月に中国で開催されるひとつのサッカー大会に、世界の注目が集まっている。第5回FIFA(国際サッカー連盟)女子ワールドカップ。1991年以来、4年にいちど開催されている女子のワールドカップ(9月10日~30日)だ。
何が注目されているのか。それは、この大会が来年開催される北京オリンピックの「リハーサル」ととらえられているからだ。大会運営や外国からの観戦ファンの宿泊、移動などの問題だけでなく、過去何かと問題があった地元観客の態度も、厳しい目で評価されることになるだろう。
一次リーグの組分け
4月22日、中国は、これまでの女子ワールドカップでは例を見ないほど、派手な組分け抽選会を開催した。抽選会前にFIFA選抜対中国代表の試合を行い(中国が3-2で勝利)、抽選会も派手な演出で飾り立てたのだ。そこに、この大会にかける中国の並々ならぬ意欲が表れていた。抽選結果は以下のとおり。
A組:ドイツ、日本、イングランド、アルゼンチン
B組:ナイジェリア、アメリカ、北朝鮮、スウェーデン
C組:ノルウェー、ガーナ、オーストラリア、カナダ
D組:中国、ニュージーランド、ブラジル、デンマーク
B組は厳しい。2007年5月現在「FIFA女子ランキング」第1位、優勝候補筆頭のアメリカが、ナイジェリア、北朝鮮と同組に入ってしまったからだ。ナイジェリアはアフリカのチャンピオンで、身体能力の高い選手をそろえている。そして北朝鮮は、昨年の06年U-20女子ワールドカップで、圧倒的な強さを見せて優勝したメンバーを何人も加え、急激に力を伸ばしているチーム。この組で首位を占めることになっても驚きではない
他の組で注目のチームはブラジルだ。アテネ・オリンピック決勝戦で、アメリカと延長戦に突入する接戦を演じ、惜しくも銀メダル。MF(ミッドフィルダー)マルタを中心としたテクニックとパスワークの攻撃は、「女子サッカーにもブラジル時代到来」を思わせた。マルタは1986年2月19日生まれの21歳。2006年、20歳でFIFA女子年間最優秀選手に選出された。
では、A組に入った日本はどうなのだろうか。日本は大会2日目の9月11日に上海でイングランドと初戦を戦い、14日には同じ上海でアルゼンチン、そして18日には杭州で前回チャンピオンのドイツと戦う。この組の3チーム、ドイツ、日本、アルゼンチンは、アメリカで開催された03年大会でも同じ組に入り、ドイツが1位、日本は3位、アルゼンチンは4位だった(2位はカナダ)。
日本のライバルチーム
初戦で戦うのは、1995年大会以来12年ぶり2回目の出場となるイングランド。イングランドは過去10年の間に、アーセナルを中心とした男子プレミアリーグのクラブが女子サッカーに力を入れ始め、現在ではセミプロの形でリーグ戦も行われて急速に力をつけた。2007の2月にはドイツと0-0の引き分けを演じている。エースのケリー・スミス(アーセナル)は、アメリカの女子プロリーグでプレーしたこともある28歳のストライカーだ。
アルゼンチンは2003年大会で日本が6-0で快勝した相手。しかし06年のU-20女子ワールドカップに出場した若手を大量に加えて強化し、同年11月に行われた南米予選では決勝戦でブラジルから史上初めての勝利(2-0)を記録、見事初優勝を飾っている。
この試合で先制点を挙げたDF(ディフェンダー)エバ・ゴンサレスは20歳、2点目を決めたマリア・ポタッサは18歳。03年大会惨敗の悔しさを知るホセ・ボレージョ監督の「秘蔵っ子」だ。
そして前回優勝のドイツは、今大会でも優勝候補の筆頭。03年から3年連続で「FIFA年間最優秀女子選手」に輝いたエースのブリギット・プリンツも健在だ。
迎え撃つ大和撫子たち
「なでしこジャパン」のニックネームがすっかりおなじみになった日本は、04年に就任した大橋浩司監督の下、果敢にチームの若返りを行ってきた。その結果、FW(フォワード)大野忍、MF宮間あや、DF宇津木瑠美、GK(ゴールキーパー)福元美穂など「ポスト・アテネ」の選手たちが中心選手として育ってきた。もちろん、不動のエースMF澤穂希、FW荒川恵理子、そして守備の中心で4月には「FIFAオールスター」にも選ばれた、キャプテンのDF磯崎裕美などのベテランたちも元気だ。簡単なグループではないが、持ち前の正確なパスワークが生きれば、上位進出は不可能ではない。
日本の上位進出はなるか。中国のファンはどのように外国チームを迎えるか。興味尽きない「FIFA女子ワールドカップ中国2007」は、9月10日に開幕し、上海、成都、杭州、天津、そして武漢の5都市を舞台に、計32試合の熱戦が展開される。決勝戦は9月30日、北京オリンピックのサッカー会場のひとつにも選ばれている上海だ。