女性もハマる歴史ゲーの登場
それでは、この歴史ブームと女性参入の流れはどこからきているのだろうか? きっかけはいくつもある。株式会社アイシェアのリサーチ結果とあわせてみてほしい。一つはゲームだ。ブーム以前、歴史ネタのゲームといえば戦国時代の大名たちを操作して天下取りを目指すシミュレーションゲームなどがメインで、あくまで男性の歴史ファン向けだった。しかし、「戦国無双」シリーズ(コーエー)や「戦国BASARA」シリーズ(カプコン)はまったく違った。まず、プレーヤーキャラクターが簡単なボタン操作でザコ兵士をばったばったとなぎ倒すーーという爽快なアクションゲームである事が、「いかにも小難しそうな」歴史ネタへの抵抗を減らした。そして、何よりも特徴的なのは登場するキャラクターたちの個性だ。例えば悲劇の英雄、真田幸村は熱血ヒーローにするなど、現代に伝わるエピソードやイメージを何倍にも膨らませた。また「猿」の豊臣秀吉はゴリラにするなど、意表をつく方向で変化させたキャラクターたちは、それまでのユーザー層のみならず、歴史にあまり興味のない女性にまで熱狂的に支持された、というわけだ。
大河ドラマ・歴史小説の変化
NHKの大河ドラマも忘れてはいけない。37年に及ぶ長い歴史をもつこのシリーズも、最近大きな変化を見せている。2000年代、大河ドラマはトレンディードラマ俳優やアイドルなどを積極的に起用し、歴史に縁のない層を開拓する試みを続けてきた。特に07年の「風林火山」、08年の「篤姫」、そして09年の「天地人」はそれこそ「歴女」たちによって高く評価され、歴史ブームが盛り上がる大きな要素となっている。歴史ものといえば小説、と考える人も多いだろう。もちろん、この分野でも女性の浸透は進んでいる。ドラマから原作へ、ゲームから人気キャラ目当てで、という流れが多いようだが、『のぼうの城』(和田竜著、小学館)のような人気作品もあらわれているし、TVドラマも好評だった『密命』シリーズ(佐伯泰英著、祥伝社)に代表される、文庫書き下ろしの時代小説も静かなブームとなりつつある。
ちょっと変わった所では、「ゆるキャラブーム」も見逃せない存在だ。イベントや自治体などのマスコットキャラクターがもつ「ゆるーい」イメージは以前から注目されていたが、それが「国宝・彦根城築城400年祭」のイメージキャラクター「ひこにゃん」などのブレイクを受けて、歴史ものへも深く結びつくようになったようだ。
歴女を生んだキャラ文化
これらの「歴女」ブームを支えるものたちには、どうやら共通点があるようだ。それは「キャラクター」である。「戦国無双」や「戦国BASARA」は史実を元にしつつもそれを極端にデフォルメしている。大河ドラマは俳優やアイドルの人気に加え、歴史上の人物の人間味を引き出す事で視聴者を惹き付けている。文庫書き下ろしの時代小説もキャラクター性を強調しているものが多いし、ゆるキャラに至っては言わずもがなだ。これまで、歴史ものといえば「とっつきにくいもの」という印象が強かった。それは、「XXXX年にどんな事件が起きて、XXXX年にどんな合戦があって~」という歴史の流れーーいわゆるストーリー部分が目立ちやすかったからだ。しかし、歴史好きの人々は必ずしも歴史の面白さがそれだけではないことを知っている。戦国時代を始めとする動乱の時代にも、江戸時代のような平穏な時代にも、その中で懸命に生きた人々の輝くような生き様があったことを知っている。つまり、キャラクターの魅力だ。そこをわかりやすくしたことが歴女誕生のキーではないだろうか。
「負け組」の生き様に萌える
それから、注目されているキャラクターの性質にも、「歴女」増加の要因があるように思う。これまで、歴史もので注目されてきたのは織田信長・豊臣秀吉・徳川家康といった天下人たちであったり、武田信玄・上杉謙信のような巨大な勢力を誇った「勝ち組」の大大名であった。彼らが成功していく様に夢を重ねた男性たちが多かった、ということもあるだろう。しかし、歴女たちの人気を集めるのは彼らではない(もちろん、この5人は5人で人気があるのだが)。特に人気のあるキャラを表にしてみた彼らはいわば「負け組」だ。天下は取れず、巨大な権力をつかむ事もない。それでも、何か信じたものの為に彼らは懸命に生きたーーその生き様、キャラクター性こそが「歴女」たちを惹き付けるのではないか。バブルの夢が終わり、失われた十年が開けて、しかし再び不況が世を襲う中で、女性たちの眼が「かつて格好よく生き抜いた男たち」に向けられるのは、ごく自然な事だ。