空前のランニングブーム
ランニングは、シューズさえあれば、時間や場所を選ばず楽しむことができる。この手軽さから、走り始める人が急増している。2008年の笹川スポーツ財団の調査によると、「ジョギング・ランニング」の過去1年間の実施率は、前回(06年)の5.9%から7.3%に増加し、推計人口は155万人も増加している。特に20歳代の実施率は、10.7%から13.1%へと増加している。ブームの火付け役とも言えるのは、07年に始まった東京マラソンだ。プロではない、多くの素人ランナーが制限時間内に完走するのをテレビで見たり、完走者の話を聞いたりして、「自分にもできるかも」と希望を持った人が多いだろう。その証拠に、回を重ねるごとに応募者数は増え、2010年のフルマラソンの応募者は、前回より約5万人も増え、27万2134人に。フルマラソンと10kmを合わせた当選倍率は、第1回の約3.0倍、前々回の4.7倍、前回の7.5倍を大きく上回る、約8.9倍と過去最高に。この数字が、ランニングブームを裏付けている。
健康志向と不景気が背景に
ブームの背景には、08年4月より始まった「特定健康診査・特定保健指導」、通称「メタボ健診」により、ダイエットなど健康志向が高まったことと、08年9月のリーマン・ショック後の不景気の影響がある。日本コカ・コーラが20代・30代の働く男女に対し、09年に行った「第1回アクエリアス・スポーツ実態調査」によると、2年以内にスポーツを始めた人が最もよくするスポーツにかける1カ月あたりの費用は、「0円」が25.5%と最も多い。約4人に1人が、月に0円でスポーツをしている。また、「スポーツを始めた理由」は、「体形維持・ダイエット」「健康維持・体力向上」が多く、「出会い」を求めている人もいることも分かった。実際にランニングを経験してみるとよく分かるが、ゆっくりと長時間走る、有酸素運動は、脂肪を燃やし、ダイエットに大変効果的だ。習慣にすると、「今日は身体が重い」など不調に気付くようになり、生活習慣に自然と気を遣うようになる。また、友人を誘って、グループで走れば、会話も弾み、人が人を呼び、新たな友人もできる。スキーやゴルフのようにお金がかからず、婚活までできてしまう。ランニングには、メリットがたくさんあったのだ。
ランニング新時代のサービス
グループで走るようになると、人の目が気になってくる。汗がすぐに乾く速乾性のTシャツなど、機能やデザインも満足できるウエアが欲しくなる。そこで、女性に人気なのが、お腹やお尻のラインを隠すことができる、ワンピース型のランニングドレス(ランドレ)やランニングスカート(ランスカ)だ。女性誌「FRaU」ではこの流行をいち早く取り上げ、ファッションを楽しみながら走る女性たちを「美ジョガー」と呼んだ。インターネットやiPodを活用したサービスも人気だ。ランナーを対象にしたSNS「JogNote(ジョグノート)」は、無料だが、走った距離や時間、体重などを入力するだけで自動的にグラフが作成でき、仲間同士励まし合うことも、ユーザーが登録したジョギングマップを検索・閲覧することもできる。会員数は8万人を突破し、毎月6000人を超えるペースで登録者が増えている。ナイキとアップルによる「Nike+iPod スポーツキット」も定評がある。これは、センサーをシューズにセットし、レシーバーをiPod nanoに装着するだけで、ランニング中に音楽を聞きながら、ペース、距離、消費カロリーなどの情報が音声とディスプレーで確認できる画期的なサービスだ。この他にも、皇居周辺を走る人が増えていることから、荷物を預けたり、シャワーを浴びたりできる銭湯やランニングステーション(ランステ)と呼ばれる施設も盛況だ。
ホノルルマラソンの魅力
毎年12月に行われ、09年で37回目を迎えるホノルルマラソンも、日本人のランニングやマラソンへの関心を高める一因になっている。1985年の第13回大会から、JALがスポンサーに加わったことで、日本人参加者を増やし、人気は定着している。ホノルルマラソンの魅力は、マラソン大会では珍しく、時間制限を設けていないため、お祭り気分や観光気分を存分に味わえることだ。私も2008年に参加したが、参加者には、景色を撮影しながら走る人や、愛犬と一緒に走る人までいて驚いた。また、毎年レースの様子がテレビ放送される影響も大きい。芸能人ランナーのゴールを感動的に伝えているのだ。00年から連続して出場している長谷川理恵や、08年大会で、4時間半を切る好タイムでゴールした安田美沙子や星野真里など、芸能人がブームの先導役になっている。
努力した分だけ結果が出る
ランナーにとって、大きな楽しみは、東京マラソンなど、力試しができるレースに参加することだ。そして、何より嬉うれしいのが、努力した分だけ結果が数字に表れることだ。走った分だけ、体重や体脂肪を減らすことができ、レースでは努力の証しがタイムで表れる。走った距離は、決して裏切らないのだ。走り続けるうちに、走れる距離も伸びていく。私自身、最初は10kmも続けて走ることができなかったが、約半年間の練習で、ホノルルマラソンを完走できた。そのときの現地の人の温かい声援が忘れられない。「You can do it」。ゴールでは、やればできるということを痛感し、感極まって泣いた。不景気で、仕事でも恋愛でも、頑張っていても努力が報われないと思っている人が少なくない。そんな中、ランニングほど、努力が結果に表れるものはないのではないか? それに、走ることで、自分の体や心に向き合うことができ、小さな歩幅でも一歩一歩前に進むことが大切だと思えた。自己啓発書を読むように、走ることを通して、生きる上で大切なことを学べる気がする。このランニングの魅力、今後、ますます多くの人が知るのではないだろうか。