自炊をしない異性とは結婚したくない?
法政大学の学生による喫煙に関するアンケート結果(2009年12月9日発表)によると、「たばこを吸う異性と結婚できない」との回答が同大学男子学生の69%、女子の61%に上った。理由は、子どもの健康への影響を考えてだそうだ。喫煙以外にも子どもの健康に大きく影響することがある。それは、食事である。先日、北九州市の保育士130人を対象に、「最近、子どもたち(保育園児)の食生活を見ていて気になっていること、驚いたことは何ですか?」という調査を行った。その回答の一部を紹介しよう。
・朝ご飯を食べてこない子どもが多い
・朝ご飯がケーキだけ。プリンだけ。ゼリーだけ。鯛焼きだけ。シリアルだけ。果物だけ。ポッキーだけ。カップラーメンだけ
・マクドナルド、ジョイフル、スシロー、焼き肉など、外食が多い
・1歳児クラスの「ごっこ遊び」が外食。その会話にハンバーガーやポテトなどが頻繁に出てくる
・一番好きな食べ物は? と聞くと、「ラーメン」と答え、そのラーメン屋さんの話で友達と盛り上がっていた
自分の子どもにこのような食生活を送ってほしいだろうか。ほしくないと思えば、先の「たばこを吸う異性とは結婚できない」は、同様に「自炊できない異性とは結婚できない」ということになるだろう。
「ならば、炊事が得意な女性と結婚すればいい」と男性であれば考えるかもしれないが、結婚しても女性が仕事をもつことが当たり前の現代、女性だけに炊事を任せておけばいいという時代ではない。自炊能力のない女性もいるだろう。07年に福岡県の大学生1000人にアンケート調査を実施したところ、実に女子学生の31%が「ほとんど自炊しない」と答えている。これが現実である。こうした学生が、すぐに社会人になり、すぐに結婚し、すぐに親になる。
自分の子どもに愛情たっぷりの手作り料理を食べさせたいと思えば、男性も自炊能力を身につけておくべきだろう。
こんなにある! 自炊のメリット
自炊は、将来もつかもしれない子どものためだけではない。まず、料理ができる男性はモテる。さらに、料理ができる男性は、仕事もできる。料理をすることで、仕事に必要な多様な能力が実践的に身につくからだ。以下、そのメリットをいくつか挙げてみよう。その1、発想力。アイデアとは、無から生まれるものではなく、過去に蓄積された既存の要素の組み合わせでしかない。料理も同じだ。素材を組み合わせ、調理方法を組み合わせて料理を作る。既存の料理を組み合わせることで、新しい料理が生み出される。あるもので作る、その日のお買い得品でメニューを考えるという力は、まさに発想力である。
その2、イメージ力。これは、味や食感、彩り等々、料理の完成図を思い描く力である。
その3、段取り力。ご飯を炊き、みそ汁を作る。カレーを作る。空揚げを作る。食べ終わった皿を洗う。料理のために必要な道具、食材をそろえようと思えば、相当な準備が必要になる。さらに料理を作る過程には、段取りが凝縮されている。洗って、切って、炒めて、味つけして、盛りつけて。これだけでも大変なプロセスである。ご飯を炊きあげながら、おかずを二品、三品と作る。しかも、限られた水栓、限られたガスコンロ、限られた調理道具を使ってである。 それで、すべての品について、熱い料理は熱いまま、冷たい料理は冷たくして食卓に並べる。しかも、そのときに使った調理道具、キッチンがピカピカなら完璧だ。その最短時間を目指す。料理とは、段取りの固まりなのである。
その4、自己管理能力。料理をしようと思えば、時間が必要になる。買い物にも行かなければならない。どうやってその時間を確保するか。弁当を作るために早起きができるか。自分で目標を定め、自分の時間や行動をコントロールする。料理をするには、セルフ・コントロールしなければならない。
できあがった料理をイメージするのがアウトプット。そのために必要な材料、道具を準備するのがインプット。完成を目指して、そのプロセスをしっかりと管理していく。完成前のイメージとできあがった料理とを照らし合わせ、差が生じれば改善方法を考え、次に生かす。つまり、これはそのまま、業務を計画通りに進めるためのマネジメントサイクル「PDCAサイクル」の実践である。計画(Plan)、実行(Do)、Check(点検)、Action(改善)を繰り返すわけだ。こう考えれば、料理はまさにプロジェクト・マネジメントなのである。1年365日、3回のプロジェクト・マネジメント・トレーニングである。いつもどおり料理していても、その力は自然と身につくだろうし、それを意識して臨めば、相当な力が身につくはずだ。だから、料理ができる人間は、きっと仕事もできるはずなのである。
九州大学の「弁当の日」
そしてもう一つ大切なのは、「人が喜んでくれることを自分の喜びに変える力」が身につくことだ。私が勤務する九州大学では、学生や教職員の有志で一人一品もちより形式の「弁当の日」を行っている。つまり、みんなのために一品を作り、みんなでみんなの料理を食べるのだ。普段、朝寝坊をする男子学生が、朝の6時に起きて揚げ物をする。適当に作った料理はみんなに食べさせられないと、前日に練習する学生もいる。食べてくれる人のことを思い描いて、必死に努力と工夫を重ね、手間をかけるのだ。
そして、実際に「おいしい!」「どうやって作るん?」「レシピは?」などと言われると、本当にうれしくなる。やってよかったと思える。みんなが喜んでくれることが、自分の喜びになる。
こうした能力や経験は、社会に出て、仕事をするときに生きてくる。給料は、お金は、誰かの笑顔の対価だからだ。誰かを喜ばすために、一生懸命、努力できる力のある人間は、社会に出ても、絶対に活躍できると信じる。その能力は、日々の弁当作りで養われるのである。