スタジアムが完成するかどうかだけでなく、ブラジル全土に吹き荒れそうなデモの嵐も懸念される。それが平和的な活動にとどまり、犠牲者を出すような事態にならないことを祈りたい。
大本命は開催国ブラジル
現在の世界には強豪国があふれている。数年前まで古ぼけた感じのナショナルチームしかもっていなかった国が突然国際サッカー連盟(FIFA)ランキングで五指に入る強豪にのし上がり、ワールドカップの「ダークホース」と目されることも珍しくない。だがワールドカップは幸運だけでは制覇できない。出場32チーム。8組のグループリーグで2位以内に入っても、優勝するには、その後の4試合を延長戦でもPK戦でも、ともかく勝ち抜かなければならない。幸運も必要だ。しかし幸運だけで4試合を勝ち続けることはできないのだ。
必然的に、優勝候補は限られてくる。
今回の筆頭候補は何といっても地元ブラジル(A組)だ。FW(フォワード)ネイマールを中心とした強力な攻撃陣に加え、ヨーロッパのトップリーグで活躍する屈強な守備陣をもち、2002年ワールドカップでブラジルを5回目の優勝に導いたルイス・フェリペ・スコラリ監督が緻密(ちみつ)な戦略でリードする。
64年前、1950年にブラジルで開催した大会で、優勝を目前にしていながら苦杯をなめた「マラカナンの悲劇」を払拭するには、過去5回のワールドカップ優勝でも足りなかった。これほど優勝が「義務」付けられた開催国は、この半世紀なかっただろう。
スペイン、アルゼンチン、ドイツも有力
他の優勝候補は、前回チャンピオンのスペイン(B組)。7試合を戦い抜く力は十分ある。同じB組のオランダ(前回準優勝)も、選手の顔ぶれだけ見れば優勝してもおかしくない。準優勝3回の「不名誉の歴史」にピリオドを打つことができるか。南米開催だけに、アルゼンチン(F組)も有力な候補だ。何しろ21世紀に入ってからの世界最高のプレーヤーと言われるFWメッシがいる。これまでアルゼンチン代表では所属のバルセロナ(スペイン)でほどの活躍ができていないメッシだが、大会中の6月24日に27歳の誕生日を迎える。成熟したプレーがアルゼンチンの頼みだ。
ヨーロッパ勢ではドイツ(G組)にかかる期待が高い。メッシほどの世界的なタレントはいないが、若く才能のある選手をそろえており、戦術面でも高い評価を得ている。
こうした「本命」に対抗できるとしたらイタリア、フランスといった過去優勝経験をもつ国ではないか。イタリアはワールドカップの戦い方を熟知し、名MF(ミッドフィールダー)ピルロのゲームメークに「怪物」FWバロテッリが呼応すれば爆発力がある。
今回不気味なのはフランスだ。2010年大会は監督と選手のいさかいで自滅したが、1998年ワールドカップ優勝時にキャプテンだったディディエ・デシャンが監督となってからはチームがまとまった。能力の高い選手をそろえているので波に乗れば勝ち進むかもしれない。
得点王候補の最有力と言われているのがウルグアイのFWスアレスだ。所属のリバプール(イングランド)で今季33試合に出場して31ゴールという驚異的な得点力を見せ、プレミアリーグの得点王となった。今、世界で最も「乗っている」ストライカーだ。このスアレスの活躍次第では、ウルグアイが上位に進出する可能性も十分ある。
積極果敢な攻めのサッカーで臨む日本
では日本代表はどうか。アルベルト・ザッケローニ監督は「日本のスタイルを貫く」ことを約束している。守備的に戦うのではなく、本田圭佑(ACミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、岡崎慎司(マインツ)といったヨーロッパのトップリーグで活躍しているアタッカー陣を中心に積極果敢に攻めるサッカーで戦うというのだ。守備に伝統のあるイタリア人のザッケローニ監督。しかし日本が守備的な試合をしたら勝てないという判断をしている。190センチ台の選手も珍しくない現代のサッカーで、相手に攻め込まれる時間が長くなれば長くなるほど、「防ぎ得ない」状況が多発するからだ。
FWのワントップ候補は柿谷曜一朗(C大阪)、大久保嘉人(川崎)、大迫勇也(1860ミュンヘン)の3人。柿谷と大久保はJリーグ、大迫はドイツのブンデスリーガ2部と、「世界のトップリーグ」で活躍しているわけではないが、本田、香川らとのコンビネーションプレーで世界を驚かせる能力は十分ある。
攻撃陣を支えるボランチには、「名人」の域に達し、34歳ながら世界の強豪とも十分戦えることを13年のFIFAコンフェデレーションズカップ(ブラジル)で示したMF遠藤保仁(G大阪)を中心に、ヨーロッパでの経験が長いMF長谷部誠(ニュルンベルク)、無尽蔵のスタミナとともに守備の強さをもつMF山口蛍(C大阪)、前線に鋭いパスを供給する青山敏弘(広島)と、力のある選手がそろっている。
そしてザッケローニ監督の攻撃的サッカーを支えるのが両サイドバックだ。右の内田篤人(シャルケ)、左の長友佑都(インテル・ミラノ)の技術の高さと攻撃力、中でも長友の突破力は、ヨーロッパでも高い評価を得ている。
準備試合では、ワールドカップ出場国で守備に定評のあるコスタリカを相手に、次々とチャンスをつくり3得点を記録した。「サプライズ選出」と言われた大久保が攻撃陣のどのポジションでも力を発揮できることが確認され、最後の最後に選手層がいちだんと厚くなった。
グループリーグ突破は横一線
グループリーグC組では、日本は6月14日(日本時間15日〈日〉午前10時)にコートジボワールと、19日(日本時間20日〈金〉午前7時)にギリシャと、そして24日(日本時間25日〈水〉午前5時)にコロンビアと対戦する。FIFAランキング5位のコロンビアの評価が高いが、実際には「横一線」と言っていいグループ。「日本のスタイル」をどこまで貫くことができるかが、勝負の分かれ目となる。ここを勝ち抜くと、「ラウンド16」ではD組の1位あるいは2位との対戦。ウルグアイ、イタリア、イングランドと、優勝経験チームが三つもそろう組だ。
前回、2010年の南アフリカ大会では、ラウンド16でパラグアイに0-0からPK戦で敗れた。グループリーグでは守備を重視しながらも積極果敢な戦いを見せたが、それがパラグアイ相手では出せなかったことを選手たちも悔やんだ。
しかしFIFAが用意した賞金額を見れば、グループリーグ敗退でもラウンド16敗退でも賞金はほとんど変わらず(800万ドルと900万ドル)、ラウンド16で勝てば一挙に500万ドルも跳ね上がることがわかるはずだ。