ドイツのフランクフルトで行われた決勝戦、「圧倒的に優位」と言われたアメリカに対し、なでしこジャパンは先行されるたびに追い付き、2-2からPK戦にもつれ込んだ。GK(ゴールキーパー)海堀あゆみが相手のキック2本を止めると、なでしこジャパンは4番手、出場選手中最年少のDF(ディフェンダー)熊谷紗希が力いっぱいゴールの左上に決めて、日本のサッカーに初めて「ワールドカップ優勝」をもたらした。
7回目を迎える女子ワールドカップ
あれから4年、なでしこジャパンにとって「タイトルを守る」戦いが始まる。第7回FIFA女子ワールドカップ カナダ2015大会は、現地時間の6月6日(土)に開幕、7月5日(日)の決勝までカナダの6都市を舞台に開催される。
1991年に中国で第1回大会が行われ、男子のワールドカップと同様4年に一度開催されてきた女子ワールドカップ。日本は世界で7カ国しかない「全大会出場国」だが、第5回中国大会(2007年)まではぱっとした成績ではなかった。5大会で勝利はわずか3。すべて南米のチームに対するものだった。グループを突破したのも、第2回スウェーデン大会一度だけだった。
優勝はアメリカが2回(1991、99)、ドイツも2回(2003、07)、そしてノルウェー(1995)と日本が一度ずつだ。
24チームが人工芝グラウンドで戦う
今回、第7回カナダ大会には、これまでと大きく違う点が二つある。一つはチーム数だ。1991年に12チームの大会として始まった女子ワールドカップは、99年の第3回アメリカ大会から16チームが参加して戦われてきた。しかし今大会は24チームの巨大大会となった。男子ワールドカップの32チームには及ばないが、8チームの増加によって決勝トーナメントが1ラウンド増え、決勝戦までの試合数は男子と同じ7となった。「選手層」が問われる大会でもある。
そしてもう一つが人工芝だ。カナダは冬が長く、寒さが厳しい。そのため主要な競技場の大半が人工芝。今大会の6会場は、すべて人工芝である。これまで、男女のU-17(17歳以下)ワールドカップが人工芝のグラウンドで行われたことはあるが、男女を通じて年齢制限のないワールドカップが人工芝のグラウンドで行われるのは初めてのことだ。
国際サッカー連盟(FIFA)は公式戦で人工芝を使うことは禁止しておらず、その仕様の基準も明確になっているから、ある程度以上のレベルにある人工芝であることは間違いない。しかし会場によってメーカーが異なり、特性が違うのは、選手たちを苦しめる要因になるかもしれない。
なでしこの中心は前回メンバー
なでしこジャパンは佐々木則夫監督(57歳)が就任して8年目。なでしこジャパンのコーチからの昇格だったが、就任直後に東アジア選手権(中国)初優勝、北京オリンピック4位、アジア競技大会(中国・広州)初優勝、女子ワールドカップ(ドイツ)初優勝、ロンドン・オリンピック銀メダル、そして女子アジアカップ(ベトナム)初優勝と、素晴らしい成績を残してきた。まさに、なでしこジャパンの栄光は佐々木監督とともにあったと言える。しかし2012年のロンドン・オリンピックから今大会までの3年間を、佐々木監督がうまく生かしたとは言えなかった。当然、世代交代が必要だったのだが、佐々木監督は若手を大胆に起用しては失望してベテラン中心に戻すようなことを繰り返してしまったのだ。その結果、今回のワールドカップに登録された23人のメンバー中、17人もが4年前のドイツ大会に参加したメンバーで占められたのである。
決勝までの試合数が一つ増えたことで大会登録選手数は前回までの21人から2人増やされ、23人となった。すなわち、前回のメンバーで今回「落選」したのは4人だけ。うち2人はすでに引退し、FW(フォワード)高瀬愛実(INAC神戸)は故障による欠場。前回のメンバーがほぼ残ったということになる。
大会前親善試合で強豪を連破
6月8日(月)にバンクーバーで初戦のスイス戦を迎えるなでしこジャパンは、そのちょうど3週間前の5月18日(月)に香川県の丸亀市でトレーニングを開始し、5月24日(日)にニュージーランドと、そして舞台を長野県長野市に移して28日(木)にはイタリアと親善試合を行った。ニュージーランドはワールドカップ出場チーム、イタリアはヨーロッパ予選のプレーオフで敗れたチームで、いずれも強豪だったが、ともに1-0で勝利を飾った。二部練習で疲労のピークにあったためか、第1戦では攻撃に鋭さがなく苦しんだ。しかし36歳で6回目のワールドカップ(男女を通じて史上最多)となるMF(ミッドフィールダー)澤穂希がMF宮間あやの左CKに合わせて勝ちきった。第2戦では、この4年間で完全なエースとなったFW大儀見優季がDF宇津木瑠美のパスを叩き込んだ。
この第2戦では、得点場面以外にも数多くのチャンスができたが、その多くは左MFにはいったキャプテン宮間が絡んで生まれたもの。昨年までボランチでプレーすることが多かった宮間が左MFに上がったことで攻撃にためができ、左サイドバックの宇津木や鮫島彩(第1戦に出場)が効果的に攻撃に参加できるようになった。また澤の豊富な運動量、ボランチながら相手ペナルティーエリアに入っていく回数の多さは、相手守備陣に大きなプレッシャーを与えていた。
まずは「くせもの」揃いのC組突破を
4年前とほとんど変わらない先発メンバーが並ぶと予想されるなでしこジャパンの中で、唯一変わりそうなのがGKだ。4年前のワールドカップでPKをストップしてヒロインとなった海堀あゆみ、ロンドン・オリンピック銀メダルの立役者福元美穂が並ぶ中で、24歳の山根恵里奈がこの1年間で急成長してレギュラーを獲得しようとしているのだ。身長187センチ。男子日本代表のGKよりも大きく、圧倒的な空中戦の強さを誇るだけでなく、見事なキックをもっており、カウンター攻撃の起点になることができる。2010年から腰痛や3度にわたる疲労骨折などに苦しめられていたが、12年に完全復活し、その後見違えるようにたくましくなった。
C組で当たる相手はすべて初出場。しかし侮ることはできない。スイスはフィジカルの強さだけでなく走力をもったチームで、多くの選手がレベルの高いドイツやフランスのクラブでプレーしている。カメルーンは、なでしこジャパンが苦手とするフィジカルの強いチームだ。そしてエクアドルは旺盛な闘志が持ち味だ。
予想されるなでしこジャパンの先発は、GK山根恵里奈、DF近賀ゆかり、岩清水梓、熊谷紗希、宇津木瑠美、MF澤穂希、阪口夢穂、川澄奈穂美、宮間あや、FW大野忍、大儀見優季。