防災にもっと「食」の視点を
――近年の大規模災害で、被災した要配慮者が直面した困りごとはどのようなものでしょうか。
日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)が2016年の熊本地震の際に避難所で記録した特別食アセスメントシートの分析からは以下の問題がわかりました。
分析によってわかってきたことや、今後の課題も多いのですが、防災に食の視点が薄いため、情報共有がなかなかうまくいっておらず、対応も進歩していないのが現状です。
要配慮者の方は、避難所に日本栄養士会の災害支援チーム(JDA-DAT)が巡回しに来たとき、ぜひ相談してほしいと思います。JDA-DATは東日本大震災後に発足して以降、さまざまな災害で支援活動を行ってきました。特に被災地に届く要配慮者向けの支援物資を一元管理し、発災後72時間以内には現地に入って避難所を巡回し、必要な人に支援物資を直接届けています。ただ、避難所の数が多いと回りきるまで時間がかかってしまいますので、地域の保健師や栄養士が巡回してきたらすぐに相談してください。
支援団体への聞き取り調査では「特別食が必要だというニーズを聞いたことがない」という声も挙がっていましたが、気兼ねしてニーズを伝えられなかった人がいたかもしれません。「自分だけ特別扱いされたくない」「わがままだと思われたくない」という人も相談しやすいよう、JDA-DATでは避難所を訪問する際、「普通の食事が食べられない方はご相談ください」と貼り紙し、特別な食が必要な人が集まって、一緒に食事できる機会を作るなど、話しやすい環境づくりを心がけています。
――今回のお話から、災害時の食をめぐる環境に多くの課題があることに気付かされました。改善に向けて、どのような取り組みが効果的でしょうか。
ひとつの大きなステップは、2024年6月に出された国の「防災基本計画」に「JDA-DATとの連携」という文言が入ったことです。都道府県は国の防災基本計画を参考に「地域防災計画」を作成しますので、これは非常に重要です。もし「自分が住んでいる自治体の災害用備蓄をもっと改善したい」と思うのであれば、この文言を挙げつつ、行政や地元の議員に働きかけていってほしいと思います。
また、防災担当者は乳幼児や高齢者のケアをしたことがない中高年の男性が担っている自治体が多いので、要配慮者のニーズ自体に気づきにくいということもあるでしょう。自治体がそれを自覚し、要配慮者にどういう食事を提供すればいいかについて知識と経験がある人ならば、年齢や性別を問わず防災担当者に加えていくことも必要だと思います。
ローリングストック
普段食べている食品を少し多めに買い置きして、賞味期限の近いものから消費し、また買い足すことで、 常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つこと。
ユニバーサルデザインフード
日本介護食品協議会が定める規格に適合する、食べやすさに配慮した食品。レトルト食品や冷凍食品のほか、液体に粘度を加える「とろみ調整食品」などがある。食品の固さや粘度にも度合いによって区分がある。
ハラール認証
「ハラール」とは「合法」「適法」という意味のアラビア語で、イスラム教の教義に照らして許されていることを示す。食に関しては、アルコールや豚肉を使用していないことがハラールの対象となるほか、多くの規定があるが、穀物や野菜、魚などは基本的に問題ない。「ハラール認証」とは、イスラムの戒律に則って調理・製造されている商品であることを認定するシステム。ただし国際的な統一基準はなく、複数の団体がそれぞれの基準にそって認証する仕組みとなっている。