吉見 ツーリズムなどにキュレーションという概念を拡張していくと、集めたものを見せるという近代的なミュージアムの枠を超えるところがあると私は思います。ミュージアムであろうが、都市や地域であろうが、あるいは情報空間であろうが、暮沢さんのキュレーションという概念の根本にあるのは、情報の空間的な構造化、あるいは空間の視覚化であって、つまり時間軸を少し壊すということではないでしょうか。
私が最近、北京の大学生たちを相手に特別授業をしたとき、‟日本の「平成時代」をテーマにしたミュージアムをキュレーションしてください”という課題を、中国人学生たちに出したことがありました。そうすると、1年生は出来事の時系列を追おうとするのですが、2年生は、時系列とは違う仕方で展示コーナーの順路を設計していました。出来事がABCDの順番でこういうふうに起こったということを知識として学ぶだけじゃなくて、それぞれの構造的な関係を理解し、こういう配置で展示をすると、全体の構造が相手に理解してもらえるということを2年生は理解していた。1年でずいぶん成長するのですね。彼らは、そこで観客に何を経験させるかを設計したわけです。
キュレーションにおいては、何を捨てて何を残すのか、それから残したものの空間的な構造化をどうするのか。そして、そこに訪れる人々の経験をどう組織するのかという、戦略性が優れているかどうかが重要になるのですね。
暮沢 モノの並べ方、情報の管理によって新しい価値をつくるというのは、私のキュレーションの定義そのものです。展覧会はもちろん、ワインショップの棚や旅行会社のツアープランなど、あらゆる場面でキュレーションが行われています。どのような基準をもって集められ、並べられているのか。それは吉見さんのおっしゃる情報の空間的な構造化、空間の視覚化とも深く関わってきます。いままでは意識することが少なかったかもしれませんが、知的生産技術としてのキュレーションは、私たちの日常の中にさまざまなかたちでひそんでいると思います。
ホワイト・キューブ
壁面が白く、装飾や凹凸のない均質的な展示空間。1929年に開館したMoMA(ニューヨーク近代美術館)で採用され、近代的な展示空間として一般化した。