そのひとつは、同じ被災地でも津波の被害がなかった内陸部と、被害の大きい沿岸部との格差。今回は阪神・淡路大震災のように地震そのもので倒壊した建物はほとんどなかったため、仙台の中心部などは今や震災があったことさえ忘れさせるほどの復興ぶりだという。
ところが、沿岸部では、いまだほとんど手つかず状態のところさえある。がれきの撤去などはようやくすんだ地域でも、町の再建計画さえできておらず、「集落を高台に移すべきか、ここに再び家を建てるべきか」といった議論の段階にあるところも少なくない、と聞いた。
そして、最近になってさらに浮かび上がっているのは、沿岸部の中にもさまざまな「格差」がある、ということだ。津波の被害にはあったものの、なんとか家屋は残り、修理して戻った人と、すべて流されてしまった人。前の仕事に戻った人と、職を失ったままの人。言うまでもなく、家族を失った人とみな無事だった人とのあいだにも、大きな格差が生じているだろう。
もちろん、誰もが「それぞれで置かれた状況は異なる」ということは頭ではわかっている。しかしそれでも、目の前で自分より恵まれた条件のもとで再スタートを切ろうとしている人を見ると、ついいら立ちや孤独感を感じてしまい、それが人間関係の摩擦につながるケースもある。
最近の災害心理学では、災害発生後、数週間から6カ月あたりまでを「ハネムーン期」と呼んでいる。この時期には、劇的な災害の体験を共有し、生き延びたことで、被災者どうしが強い連帯感で結ばれ、さらに支援や再建に希望や夢を託しつつ、避難所生活やがれきの片づけなどを協力し合って行うといわれる。全体的に、被災地は温かいムードに包まれるため、「ハネムーン」などという名前がついているのである。
そして、その「ハネムーン期」が終わると、当初の「希望や夢」も実現不可能とわかり、目の前の現実やまさにそれぞれの格差に直面する「幻滅期」がやって来る。これは人によって継続の期間が違うが、そこから本当の意味で地に足をつけて心の再スタートを切る「再建期」までは、相当に長い月日を要する場合もあるといわれる。
そう考えると、被災地はいま、まさしくこの「幻滅期」に突入したものと思われる。これまでは多少の格差があっても、「つらいのはみんないっしょだよ」と温かいムードで包まれることで目立たなかったが、ここに来てそのムードも消失したため、よりはっきりと浮き彫りになってきたのだろう。
しかし、この「幻滅期」がなければ、次の「再建期」もやって来ないと考えると、心理的にしんどいいまの時期は、避けては通れない“産みの苦しみ”の時期なのだともいえる。人間関係がぎくしゃくするなどつらいこと、イヤなこともあるけれど、ここを通り越えさえすれば、本当の意味の再建がきっと始まるはずだ。自分にそう言い聞かせて、不安や怒り、孤独感で気持ちが揺らいでいる被災者がいたら、なんとかこらえてほしいと思う。
被災地以外に住む人たちは、「幻滅期」に入った被災者の心理を理解し、さまざまな格差で悩み、傷つく人たちを今こそしっかり支えていかなければならない。「もう半年もたったから大丈夫だろう」ではなくて、「半年たったからこそ本当の意味でしんどい時期に入った」のである。そのことを忘れないようにしたいものだ。