しかし、前年より10%以上、増加した世代もある。それは、「学生・生徒」に分類される若い人たちだ。前の年より101人も増え、統計を取り始めた1978年以降、初めて1000人を超えた。中でも20代では、死因の1位が「自殺」となる年が続いている。これは先進国といわれる国では、きわめてめずらしいことだ。
前途ある子どもたちや若い人たちが、なぜ「自殺」という最悪の結論を選ぶのか。おとなは「未来があれば何でもできる。どんなことでも解決できる」と思うが、どうして本人たちにその思いが伝わらないのか。
さまざまな分析があり、中には「若者が打たれ弱くなったから」「困難な問題に向き合う力が弱っているのではないか」と述べる人もいる。ただ、精神科医としての経験から、その“若者自己責任論”には同意ができない。診察室で見ている限り、子どもや若者本人の心の耐性や問題解決能力が著しく落ちている、とは思えないからだ。むしろ、彼らの困難な状況に立ち向かい、自分なりの道を見つける力に驚かされることのほうが多い。
しかし、その「生きる力」が発揮されるためには、ひとつ条件がある。それは、周囲のおとなたちからの適切なサポートが必要、ということなのだ。
そのサポートがなければどうなるのか。それは、子どもや若者が本来的に持つ「自責感情」や「自罰の意識」が強く出てきてしまうのだ。一般的に子どもは天真爛漫だと思われがちだが、それは正しくない。ある精神分析学者によると、子どもは幼児期のごく早い時期から、「私のせいだ」と自分を責める感覚を強く持つことがわかっている。たとえば、自分の育児で母親が疲れている様子を見ると、「私がお母さんをいじめちゃった」と思う子もいる。
診察室でも不登校の中学生と話す中で、「ウチは両親の仲がとても悪くて、しょっちゅう離婚の話をしています。それって私が悪い子だからなのです。私がもっといい子だったら、両親も仲良く暮らしていたんじゃないか、と思うんです」といった言葉が出てくることもある。もちろん、両親の不仲の原因はほかにあるわけだが、このように子どもはちょっとしたことでも「私のせいでこうなった」と思いがちなのだ。
このように自分を責め続けていると、子どもや若者からどんどん本来の力が失われて行く。そして、目の前の問題を解決できなくなるどころか、ついには「私さえいなくなればすべてはうまく行く」「このまま生きていても迷惑かけるだけだ」という発想にまで至ってしまう。
最近は「子どもを甘やかすな」という考えのもと、「自分で何とかしなさい」と突き放すようなしつけや教育をすすめる人もいるが、それはあくまで「どうしてもうまく行かないときは助けるよ」というセーフティーネットがあってのことだ。そのフォローもないまま、「これはあなたの責任だ」と子どもや若者にも自己責任を突きつけるのは、彼らを思わぬところまで追い込んでしまう結果になりかねない。
おとなはいつでも、子どもや若者のためにあらゆるサポートをする準備がある。「私が悪いからこうなった」と思わずに、まず身近なおとなに助けを求めてほしい。いま私たちが若い人たちに発しなければならないメッセージは、「あなたは悪くない」というものなのではないだろうか。