たしかに、昨年2011年は弁護士会費などを払える見通しがたたない、といった理由で、司法修習を終えた弁護士志望者のうち、約2割が弁護士登録をしなかったことがわかっている。司法修習を担当する弁護士からも、「修了生の就職先がなかなか決まらない」という話を聞いたことがあった。とくに大都市の事務所はどこもいっぱい、運良く就職できても「営業をかけてとにかくたくさんの案件を集めてくる」といったタイプの事務所では、ひとりで何百件もの案件を抱えさせられ、若手弁護士がパンクしてうつ病などになるケースもあるそうだ。
とはいっても、誰もが気軽に相談に行けるレベルにまで弁護士が増加しているのか、というとそれは違うと思う。診察室にも、法律が関係したトラブルから、メンタルヘルスの不調が引き起こされたと思われる人が、いまだに大勢やって来る。多重債務、離婚などの家族問題、職場のパワハラやセクハラ、ご近所とのもめごと……。こちらは起きてしまった心身の不調については治療できるが、もとになっているトラブルについては、弁護士など司法の専門家の手を借りて解決するしかない。
しかし、「弁護士のところに相談に行きましたか? そのほうがいいと思います」と勧めても、みな困った顔をする。「どこに弁護士の先生がいるのかわかりません」「弁護士さん! ものすごく高いんでしょう? とても相談に行けないです」、中には「どうして弁護士のところに行かなければならないんだ! 何も悪いことなんかしてないのに」と腹を立てる人もいる。
近寄りがたい、高額、犯罪にかかわった人がお世話になる人。「弁護士」にはいまだにそんなイメージがあるようだ。今や精神科や心療内科のほうが、よほど行きやすい場所となっているとも言える。
また、今回、震災の被害を受けた東北は、かねてから弁護士の数が十分だったとは言えない地域だ。中でも、とくに不足しているのは女性弁護士。県によっては常駐している女性弁護士がわずか数人、というところもあった。「女性の弁護士さんに話したい」「できれば同世代の先生がいい」と思っても、とても選択の余地などない、というのが実情のようだ。所得が低い人でも弁護士を利用できる制度である「法テラス(日本司法支援センター)」も、被災三県にそれぞれ事務所を開設し、仮設住宅などを訪問して呼びかけを行っているが、それでもまだ十分とは言えないという。
このように、弁護士を必要としている人は、実はまだまだたくさんいる。できれば「増えすぎてしまったから減らして」と早急に結論を出さずに、誰もが気軽に相談できるような仕組みを作ったり、大都市に集中している現状を何とかしたり、といった工夫から始めたほうがよいのではないか。
「メンタル疾患だと思っているあなた、それって法律トラブルが原因かもしれませんよ。そんな場合は、お気軽に弁護士に」。私なら、そんなポスターを精神科クリニックなどに貼りたいところだが、効果のほどはどうだろう。