具体的には、「報道ステーション」はコメンテーターだった古賀茂明氏が、3月27日の番組内で自らの降板理由について「菅義偉官房長官らからバッシングを受けてきた」と語った問題、また「クローズアップ現代」は「週刊文春」(3月26日号)の報道によって発覚した「『出家詐欺』問題の回で取材、出演したブローカー、多重債務者がやらせ?」という疑惑について、それぞれ説明を受けることになっているとのことだ。これに関して、野党内および報道機関からは「個別番組への干渉だ」「番組編成の自由を保障する放送法に違反している」など批判の声が上がっている。
私自身が見すごせないのは、一部報道に「自民党の動きの背景には放送倫理・番組向上機構(BPO)が機能していないとの不満がある」という文言があったことだ。BPOは日本民間放送連盟(民放連)とNHKによって作られた第三者機関で、外部の立場から放送について審査することを目的としている。三つの委員会があるが、私はそのひとつ放送倫理検証委員会の委員を拝命している。
放送業界が設立したという部分だけから「なれ合いではないか」と批判する声もたまに耳にするが、逆に現場からはBPOは「厳しすぎる」と警戒、敬遠されがちだ。審議案件となると関係者への長時間のヒアリングが行われるが、それを江戸時代の罪人取り調べに例えて「お白洲」と表現する人もいる。とくに放送倫理検証委員会の審議で「倫理違反」が認められると、詳細な意見書が公表されると同時に、新聞やテレビでもそれが大きく報じられる。
私自身、委員を務めながら、審議の厳密さを常に実感している。ヒアリングや委員会での話し合い、意見書作成には一切の“手心”も妥協もなく、当然のことかもしれないが非常に長い時間とエネルギーが注がれる。
では、なぜそこまで厳しく審議するのか。BPOの設立の趣旨にその理由が書かれている。
「(BPOは)放送における言論・表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理の問題に対応する、第三者の機関です。
主に、視聴者などから問題があると指摘された番組・放送を検証して、放送界全体、あるいは特定の局に意見や見解を伝え、一般にも公表し、放送界の自律と放送の質の向上を促します。」
つまり、厳密な審議や意見書の公表を行うことで、番組の取り締まりを行いたいわけではなく、目指されているのは「放送界の自律と放送の質の向上」なのだ。もっと言えば、高い自浄能力を保持し続けることは、外部からの介入を防いで放送界の自律性や表現の自由を確保するためにこそ必要なのである。
今回、自民党が問題視している「クローズアップ現代」の問題にしても、まさに現在、放送倫理検証委員会で討議しており、今後、NHKが設置した調査委員会の最終報告を見た上で、審議・審理入りの是非を判断するという方向性を委員長が発表している。それも待たずに自民党が独自に聴き取りを行う、というのは事実上、BPOを否定している行為なのではないだろうか。17日の会議の内容を注視したい。