そして、この問題にはさらに重大なポイントがある。それは、その実質“9割引”で売られた国有地に建てられる予定の小学校の名誉校長に、安倍総理夫人の昭恵氏が就任していたということだ(現在は辞任)。昭恵氏は同法人が経営していた塚本幼稚園をこれまで複数回、訪問。2015年9月4日の自身のフェイスブックには、同幼稚園での写真とともに「大阪の塚本幼稚園にて講演。園児達は大変お行儀が良く元気です。毎朝君が代を歌い、教育勅語、論語や大学などを暗唱。」と記している。
そうなると安倍総理と同法人との関係も気になり、土地の破格の価格設定にも関与しているのでは、といった疑問が当然、出てくる。とくに同小学校は当初、「安倍晋三記念小学校」という名称での開校が計画されており、実際にその名で寄付金が募られたとの報道を見ると、とてもただの偶然で昭恵氏が訪問したことがあるだけ、とは思えない。しかし、現在まで総理は一貫して自らと同法人との関係を否定、「安倍晋三記念小学校」という名称についても、国会では野党議員の追及に「非常にしつこい中に於いて、家内が苦し紛れに(リップサービスをした)」といった答弁をしているのだ。この「本当に総理自身は同法人の理事長らと懇意ではなく、国有地の安売りにも関与していないか」については政権に対して及び腰が目立っていたマスコミもようやく本気で調査、取材を行いつつあるようなので、早晩、何らかの結果が出るのではないだろうか。
ただし、今回の疑惑にはもうひとつ大きな問題がある。それは、同法人の教育方針だ。昭恵氏が訪れた塚本幼稚園は、同氏のフェイスブックにもあるように園児に教育勅語を暗唱させ、国歌だけではなく軍歌を斉唱、演奏させる。いわゆる「愛国幼稚園」としてこれまでもたびたびネットメディアに取り上げられたり関西ローカルでドキュメンタリーが放映されたりしていた。昭恵氏は小学校の開校準備イベントにも参加して、「こちらの教育方針は、たいへん主人も素晴らしいと」と述べ、総理自身もこの極端な愛国教育に共感しているような口ぶりであった。
そして、これはいまさまざまな場面で見られることなのだが、極端な愛国心は容易に排外主義、差別煽動にもつながる。今回、国有地の問題から塚本幼稚園の教育にも再びスポットライトがあたり取材が行われる中で、経営者から園児の保護者に「中国人、韓国人は嫌いです」といった差別的な手紙が送られたり、同幼稚園の運動会で園児が「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心を改め」と声を張り上げて選手宣誓を行ったりしていたことが明らかになった。「いまの日本はすばらしい」だけではなく、先の戦争も含めて日本がやってきたことは正しかったのだという歴史修正主義がそこに加わり、そうなると侵略された側である中国、韓国は悪だという発想になるのだろうか。それにしても、そういった差別的な観念を年端もいかない幼稚園児たちに植えつけ、差別煽動(ヘイトスピーチ)ともいえる発言を運動会で強いるというのは、偏向教育というより心理的虐待にも近いのではないかと思われる。
このような差別煽動に近い教育が行われる学校法人の経営者らと国の長たる人やその夫人が交流していたのであるのならば、本来すべきなのはそれをやめるように助言することだったのではないか。それを「教育方針がすばらしい」と共感したとするならば、常識的に考えてその人たちには国を治める資格はないといえる。
さまざまなレベルでの問題を含む今回の疑惑、うやむやにせずにすべてを明らかにし、問題の本質がどこにあるのか、きちんとあぶり出してもらいたいと思う。