この3月で、東日本大震災から10年になりますね。そこで、各種のメディアが様々な特集企画を打ち出してきています。
被災地の皆さんのこの10年間のご苦難と懸命さ、そして賢明さを伝える記事には、もらい泣きの涙が流れます。ですが、それにひきかえ、復興に向けての政策対応に関しては、ひたすら、呆れたり怒ったりさせられる報道や解説ばかりが目に止まります。
復興事業のために用意されたはずの政府予算は、使い勝手があまりにも悪かったり、狙いが見当違いだったりで、かなりの部分が未消化のままになっている。そうかと思えば、どう考えても復興事業とは言えない計画への復興予算の充当あるいは流用が横行している。こんな話ばかりです。
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「東日本大震災・原子力災害伝承館」に関するルポルタージュものの記事(2021年3月8日付毎日新聞朝刊)にも、実に唖然(あぜん)としました。この建物は、東京電力福島第1原発に隣接した場所にあります。その建設には、総事業費53億円の国費が投じられました。そして、20年9月にオープンしました。ところが、開館から半年もしないうちに、展示内容の変更を余儀なくされることとなったのです。
博物館や美術館の特別展示なら、半年で入れ替えられるというのは分かります。ですが、「伝承館」の展示物は、そのような性格のものではありません。震災当時の記録を集約し、そこからの教訓を後世に残す。その決意が、「伝承館」というネーミングに込められたはずです。折々に特別企画を組むことはあるとしても、常設展の内容をそうそうコロコロ替えるという性格の施設ではないでしょう。しかも、開館から半年足らずでの展示替えというのは、いかにも奇異です。
なぜこんなことになったのか。それは、展示内容が来館者に不評だったからです。特に地域住民や被災者の評判が悪かったのです。その理由は「不都合な真実」の封印でした。政策の失敗や、行政の対応のまずさ。それらが引き起こした人災。それらを洗い出し、展示の中で示すということが行われていなかったのです。これでは、教訓を「伝承」することが出来ません。
封印された不都合な真実の一つが、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」に関するものでした。このシステムに基づくデータを政府から受け取っていたのに、県がこの情報を市町村に伝えなかった。そのおかげで、自治体によっては、放射線量の高い方向に住民を避難誘導してしまったのです。教訓を伝承したいと真剣に思っているのであれば、展示内容に含めないわけにはいかない事実であるはずです。それなのに、伝承館では「SPEEDIの取り扱いを明確に定めたものはなく、情報を共有できませんでした」と書いてあっただけだそうです。
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どうして、こういうことが起こるのでしょうか。それは、今の日本の政策と行政の中軸部分に重大な欠陥があるからだと思います。その欠陥とは、利他性の欠如です。これでは、話になりません。政策も行政も、あくまでも利他的であることが、その本質であるはずです。政策は世のため人のために取り行うものです。行政の担当者たちは、自分たちのために仕事をしているわけではありません。利他性なき政策や利他性なき行政などというものは、成り立たないはずです。
ところが、今日の日本の政策と行政は、その軸心を利己性に乗っ取られてしまっている。これをやれば自分が得点出来る。これをやると自分が減点される。保身のための得失点勘定が全ての行動や決定を支配する。これでは、不都合な真実が語られるわけがありません。
利他性を失い、利己性に乗っ取られた政策と行政は大変な危険物です。それらのお蔭で、我々の命が奪われることになりかねません。政策と行政の担い手たちを、厳しく鋭い目で監視し、大きな声で叱り飛ばす。それを我々がやっていかなければいけません。