歌舞伎の登場人物は芝居の世界を離れ日常でも例えば「だれだれのように」と耳にしたり口にすることがある。いわば元祖ヒーロー・ヒロイン。そのキャラクターを知れば芝居もより楽しめる。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)
盗賊白浪五人男、日本駄右衛門(にっぽんだえもん)・忠信利平(ただのぶりへい)・赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)・南郷力丸(なんごうりきまる)の一人。犯行手口は強請(ゆすり)。島田髷(まげ)に黒振袖というお嬢様風の女装を隠れみのに、難癖をつけて金をせびる。正体がばれるとコロリと開き直り、堂々と着替えるのが眼目の一つ。初演の五世尾上菊五郎以来、音羽屋(おとわや)の家の芸。『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』(1862年初演)。
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団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)
チンピラといさかいを起こした前科者。出牢に尽力してくれた大恩人の息子を、何に代えても守ろうと堅く決意する。悩みの種は強欲な舅(しゅうと)義平次。金目当てで邪魔をされ、ほとほと手を焼いて争ううち、意に反して殺してしまう。泥まみれになりながらも型の美しさを見せる、本水を使った舅殺しの場は、歌舞伎エッセンスの凝縮図。『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』(1745年初演)。
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小栗判官(おぐりはんがん)
有名なのは碁盤上で荒馬を乗りこなす勇姿。許嫁(いいなずけ)、照手姫の叔父が企む御家騒動に巻き込まれて二人は離散し、判官が家宝探索のために他の娘と婚約する間際、その家に下女として奉公する照手姫と再会する。破談になり怒った娘の祟(たた)りが判官の足を不自由にし、照手姫のひく車で放浪の旅に出る。近松門左衛門『当流小栗判官』をもとに、市川猿之助が『当世流小栗判官』を再編。
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時姫(ときひめ)
北条時政の娘でありながら敵方の若武者三浦之助を恋い慕い、ついには父の暗殺も決意するが、望みかなわず命を絶つ悲劇のヒロイン。たすき掛けした姉さんかぶりの姫が、あばら屋で義母をかいがいしく看病する姿が健気に映る。八重垣姫・雪姫を合わせて「三姫」と呼ばれ、特に重んじられる女形の大役。『鎌倉三代記(かまくらさんだいき)』(1794年頃初演)。
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