元祖ヒーロー・ヒロインたちの第二弾。歌舞伎ならではのドロドロの人間関係、因果応報の倫理観、浮き世のしがらみが面白い! 歌舞伎のキャラクターには、人間の持つあらゆる性格や感情、行動が凝縮されているのだ。(2009年 編集協力/伊佐めぐみ)
ゆうしで
筑紫の神宮に仕えて二十歳まで処女。簪(かんざし)代わりの白羽の矢がその証(あかし)。不浄を嫌う宝物の献上役に任命されるが、色男の女之助(おんなのすけ)に一目惚れして、勧められるままに酒を飲んでムラムラ欲情する。実は交尾中のイモリを浸した「いもり酒」という媚薬のなせる業で、すべて宝物の献上を阻む者たちの策略。処女喪失によって宝物が変色したのを父にみとがめられ、最初で最後の恋を胸に自刃。『苅萱桑門筑紫いえづと(かるかやどうしんつくしのいえづと)』(1736年初演)。
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縮屋新助(ちぢみやしんすけ)
新潟小千谷(おぢや)の呉服商人。毎夏江戸に出向くのは商用と妹探しのため。難癖つけてきた郎党からきっぷのいい芸者美代吉が救ってくれたのを機に、何度か窮地を救ううち本気で惚れてしまった。自分になびく条件で情夫(いろ)のための金まで用立ててやるが、情夫からの急な別れ話に絶望した美代吉に、みんなの前で罵倒され八つ当たりを受ける。逆上の末殺した美代吉は長年探し続けた妹であった。『八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)』(1860年初演)。
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袖萩(そではぎ)
安倍貞任(あべのさだとう)の元妻。駆け落ちして一緒になった夫は、弟の宗任(むねとう)と打倒源氏に夢中で離婚。泣き明かして目が見えなくなった後は、三味線の弾き唄いをして一人娘と共に流浪の旅を続ける。自分を勘当した父が切腹するうわさを耳にしたので朽ちた姿で帰参するが、雪降る庭先で祭文(さいもん)を奏でることしか許されない。着物を脱いで温めてくれる娘の情愛が、親不孝をした我が身に一層染みわたる。『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)』(1763年初演)。
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青山播磨(あおやまはりま)
憂鬱な青年。旗本という恵まれた身分にありながら、泰平の江戸に充実感を得られずにいる。なぐさめは恋人お菊の存在。しかし愛情をはかるためにわざと家宝の皿を割った女の浅知恵を嫌悪。皿を惜しむ小さな男と思われぬよう全損させた上で成敗する播磨も、一方、愛を確かめた今は、命も惜しくないと身を差し出すお菊も、どちらも不安にさいなまれた人間の末路を映し出しているかのよう。岡本綺堂作。『番町皿屋敷(ばんちょうさらやしき)』(1916年初演)。
◆その他のミニ知識はこちら!【歌舞伎のヒーロー・ヒロイン列伝 Part 2】