プレジデントはゴルフ!
「今日、市場にアフリカ系の人がいたよ!」私はタウンジーで外国人を見かけると、うれしくなって夫に報告します。
夫の返事は毎回同じで「その人なら知ってるよ」。
旅行代理店の経営者として自負があるようで、「いつもその人のチケットを手配してるし、家まで知ってる」から始まり、「僕はタウンジーの外国人は全員知ってる」という話に行きつくのがパターン。
外国人だけではなく、「僕は流行する前からフェイスブックをやっているから、タウンジーの人は全員友だち!」と、自慢します。
が! 私が知っている友だちは、怪しい中国人二人と義弟の同級生だけ。
二人の中国人は単身赴任でタウンジーに住んでいて、中国とミャンマーを行き来する際、夫の店を利用してくれるお客さんです。二人ともミャンマー語がしゃべれないので、中国語ができる夫の店に入りびたり、3人でよくつるんでいるというワケ。
3人で何をしているかというと、ゴルフです。
「社会的な地位が高くなればなるほど、遊ぶボールが小さくなる」というのが、夫の持論。普通の人はサッカーなどの大きなボールで遊び、少しお金持ちになるとテニス。プレジデントはゴルフだと言うのです。
「じゃあ、ピンポン玉は?」
「いや、そういうものなんだ」
あらら、論理のない返事。フェイスブックあたりで仕入れたネタなのでしょうが、かなり本気でそう思っているところは、“意識高い系”全開です。
単身赴任のエロおやじコンビ
二人の中国人は、ミスター・ウェイとシーボーです。ミスター・ウェイは、スケベそうな笑いを浮かべている40代後半のおっちゃん。いや、スケベそうではなく、スケベ! 一緒にマッサージに行った時、「股間に近いところを揉んでもらった!」と喜んでましたから。エロいお店じゃなく、普通のマッサージ店ですよ!
しかも中国に妻子がいるのに、タウンジーにも現地妻がいるのだから、エロおやじ度MAX! 現地妻はバツイチの中国系ミャンマー人で、中国語の先生です。いつもみんなとゴルフ場に向かうのですが、ボールは打たずに歩いているだけだとか。「本当は行きたくないんだけど、呼び出されるのよね~」と、面倒臭そうにボヤいてました。
二人はよく夫を夕飯にも誘うので、以前は私もたまに参加していました。
彼らは夫がパンデー(中国系イスラム教徒)だと知ってはいるのですが、まったく意に介さず! シーボーは「食べて食べて!」と豚肉料理を取り分けてくれるし、ミスター・ウェイは「俺の酒が飲めないのか!」と迫ってくるし。そして、豚肉は丁寧に辞退しつつ、お酒は断らない不良パンデーの夫。
中国語ができない私は、身振り手振りや漢字の筆談で彼らとコミュニケーションしていたのですが、二人ともタバコを吸うので、妊娠を機にパスするようになりました。
さて、夫より少し年下のシーボーは、まだエロおやじ感はありませんが、素質は十分! その食事会に、現地妻っぽい人を連れてきたことがあるのです。
私がシーボーの奥さんの話をしようとしたら、小声で、しかし必死で止める夫。
「奥さんがいるって彼女は知らないの?」
「知らなくて、ケンカでも始まったら困るから、余計なこと言っちゃダメ!」
うっかりヘンな情報を吹き込んでは大変と、その日は黙って下を向いていた私……。
彼らは頻繁に中国とミャンマーを行き来しているので、「今、こっちにいるの?」と、たまに尋ねるのですが、夫からストレートな返事が返ってきたことはありません。「何でそんなことが気になるの?」と、スルーされてしまうのです。
こっちにいるならゴルフに行くのかな、くらいの軽い気持ちで聞いてるだけなのに、突っ込まれるとマズイことがあるのか?
ともあれ、現地妻のいる中国人二人組の様子を見ながら、「何があっても単身赴任はしない!させない!」と決意した私なのでした。
スケベ男はKTVが好き!
さて、ミャンマーのスケベ男たちに人気なのがKTV。これはカラオケテレビの略で、個室でカラオケを楽しみながら女の子たちがお酒をついでくれたり、チップをはずめば若干お触りOKだったりするレストランです。私は行ったことがないのでよくわからないのですが、日本のキャバクラのイメージ? とにかく、スケベ男同士が顔を合わせると、ニヤニヤしながら「KTV行くか!」と冗談を言い合うのが挨拶代わりになっているほどの人気ぶりです。
中国人のエロおやじ二人組は、いかにもKTVが好きそう! そう思って、「ミスター・ウェイたちとKTV行ったことある?」と突っ込んでみたところ、ちょっと焦った感じで、「……あるけど」と白状した夫。
「へぇ、あるんだ! ミスター・ウェイは女の子呼んで、めっちゃテンション上がってたでしょ?」
「いや、あんまり楽しくなかった。彼はケチでチップをはずまないからね」
夫がKTVでエロおやじ化していたらどうしようと心配していたのですが、ミスター・ウェイがケチでよかった! でも、しかし、だったら! KTVと聞いた夫が見せた焦りは何だったのか?
目的がよくわからない“朝活”
夫は毎朝、喫茶店に行きます。仲間と朝食を食べながら「ビジネスの貴重な情報交換をしている」のだそうです。それって朝活じゃん? ミャンマーに “朝活”という言葉はないけど、もしそうならかっこいい! と思って一度ついて行ったら、しょうもない世間話ばっかり(笑)。
喫茶店から帰ってきた夫に、経済の話を振ってみたことがあります。
「ドルのレートはこれから上がるの? 下がるの?」
「そんなこと誰にもわからないよ。わかったら、経済学者はみんな億万長者になってる」
そうじゃなくて、朝活で仕入れた情報とか分析を聞きたかったのに……。
朝活仲間は数人いるようですが、毎日、一緒に行くのが、義弟の同級生。夫は彼にお金を貸していて、毎月7万円の利子をもらっているとか。利子だけで7万円て、いったいいくら貸してるのか? そして、その友だちは貧乏でもないのに何のために借りたのか?
借金がある相手とは顔を合わせたくない、というのが普通の感覚ですよね。でも、夫が遅れると「紅茶が冷めちゃったよ」と電話をかけてくるし、夫もうれしそうな顔で「早く来いよ」と電話をかけるし。毎朝会うことで見張っている様子はなく、不思議で怪しい仲良しです。
夫vs義弟、どっちが自由人?
以上、夫の友だちは3人だけなので、ついでに義弟を紹介しましょう。義弟の家族は、奥さんと子どもが二人。現在、ヤンゴンで両親と同居しながら旅行代理店を経営しています。そして夫は、家族がもともと住んでいたタウンジーで、義母が始めた旅行代理店を引き継いでいる、という構図です。
義弟と私は同い年なのですが、二人とも白髪が多く、いつも夫のほうが若く見られるのが共通の不満。夫曰く、「白髪が多い人は、健康管理ができていない」。「じゃあ、どうしたら白髪を減らせるの?」と尋ねると、中国式健康講座がスタートします。
「髪のためには、黄色の食べ物を食べろ。色と内臓は関連しているからどうのこうの……」
何度も聞かされているのですが、まったく覚えられず……。
さて、何事にも慎重な夫は、ビジネスに関して現状維持派。これに対し、義弟は店を大きくしたいという野望があり、「日本のお客さんを呼ぶにはどうしたらいい?」と、相談してくることもあります。
その一方で、例の同級生に呼び出されたと言っては、仕事も子どもも嫁に任せて、よくタウンジーに遊びに来る自由人。いつも急に「今バスに乗った。明日の朝、着くから」という具合です。いや、連絡が来ればまだいいほうで、夫も私も、彼が来ることすら知らないことも。