義母が覚えた日本語は?
海外旅行をするとき、少しはその国の言葉を覚えて行きますよね? みなさんは、どんな言葉を覚えて行きますか? 普通、「ありがとう」「こんにちは」は必須だと思いますよね? 義母は三つの日本語を覚えました。最近、夫の親族は、日本熱に浮かれています。私という日本人が身内にいるから、というわけではなく、単に盛り上がってるだけ(笑)。
その熱に浮かれて、昨年、義母の弟 が北海道旅行をしました。その土産話で「魚とアイスがおいしかった」と聞き、義母が覚えた日本語は「魚が食べたいです」「アイスが食べたいです」。これで二つ(笑)。
しかし、さすがの義母もこれだけでは不安だったのでしょう。私とはぐれたときの対策として、「ここまで連れて行ってください」「ここに電話をしたい」という日本語のメモを準備しました。
そして、義母が覚えた三つ目の日本語は! 「石神井(しゃくじい)公園」(笑)。
以前、日本に来た夫が覚えていて、「石神井公園という駅が近くにある」と教えたのです。こう聞けば、私の実家が石神井公園にあると思いますよね? ところが、実家の最寄り駅は「ひばりヶ丘」。中国系なので、漢字は覚えられるけど、ひらがなはチンプンカンプンなのでした。
というわけで、日本へ来る前に義母が覚えた日本語は「魚が食べたいです」「アイスが食べたいです」「石神井公園」の三つ。しかも「石神井公園」は覚えても意味ないし!
タウンジーに怪しいお店出現!
日本へ来る前に義母は、日本語で1から10までの数字を覚えようともしていました。が! それは日本旅行のためではありません。旅行前の2月半ば、義母は、夫の仕事を手伝うためと、2人目を妊娠している私の体を気使って、自分が住むヤンゴンからタウンジーにやって来ました。そのとき、親戚から「日本人がやってるお店ができたよ」と、聞きつけた義母。
「無料健康セミナー」「無料で日本語を教えます」という看板が出ているそのお店がオープンしたのは、去年の夏ごろでした。毎日、健康セミナーが開催されるほか、マッサージ機や目が良くなる機械などが置いてあり、それらも無料で使うことができます。
タウンジーに滞在していた1カ月半、義母は毎日そこに通うほどハマってしまったのです。朝、お弁当を作ると、自分は10時半くらいに早々と昼食を済ませ、夫の店にお弁当を届けるとその店へ行き、また夫の店に戻って店番、という毎日。目的は、日本語よりも健康セミナーです。
いやいや、このお店にハマったのは義母だけではありません。タウンジー中のヒマな高齢者が集まっているかのような盛況ぶりで、脚の悪いおじいちゃんまでが、店の前まで車で送ってもらうほどです。
しかし、タダほど怖いものはない! 怪しいニオイがプンプンします。実際、健康セミナーや日本語教室は客寄せ手段で、健康食品やサプリメント、健康グッズを販売することで、ビジネスとして成り立っているのです。
どんなところなのか興味もあったので、義母の健康相談について行ったところ、MAX級の怪しさでした!
橋下さん、舛添さん、名前使われてますよ!
まず、お店のドアを開けると、若いスタッフが「いらっしゃいませ~! ミンガラ~バ~!」と、叫ぶような挨拶。帰るときも同様に「ありがとうございました~! チェーズーティンバーデーシーン!」。元気を通り越して、異様すぎ~!売られているグッズを見ると、日本で100円の普通のペットボトルの水が350円! サプリメントや磁気ベルトが1万円! そして10万円の布団! 高すぎ~!
私はまだ健康グッズとは無縁の年齢なので、相場を知りません。そこで日本の通販サイトで調べたところ、有名メーカーの磁気ベルトが3000円くらいで買えると判明。そのお店の磁気ベルトは見たこともないメーカーで3倍以上! ぼりすぎ~!
それでも売れるカラクリは、セミナーに出るとポイントカードにスタンプを押してもらい、たまったポイントに応じて割り引きしますよ~、という悪魔のささやき。つまり、セミナーに出れば出るほどお得ではあるのですが、そのセミナーで毎日のように、洗脳されているのです。たとえば「ひざが痛かったらコンドロイチンを飲め。コンドロイチン買え買え!」と。その洗脳に、高齢者たちが気づいているとは、とても思えません。
義母が欲しがったのは、当然、10万円の布団。全力で止める私を振り返り、「日本に行ったらあるかな?」と(笑)。
私がこのお店で見つけた怪しいの極めつけは、立派な額縁入りで並んでいた2枚の販売許可証。日本語で「健康器具販売を許可します」と書かれた下に、それぞれ、橋下徹さんと舛添要一さんの名前が……? すでに2人とも現役じゃないし(笑)。
でも、これを読めるのは、タウンジーで私だけなんですよね。
大使館から密命が!?
いやいや、販売許可証よりもっと怪しいのは、セミナーをやっている日本人のおじさんでした。60歳過ぎくらいで、容貌はタヌキにそっくり! 自称、いろんな国を転々としている。しかもミャンマー語ができない(笑)。やっぱ怪しすぎ~!だけど、セミナーは面白い! 通訳を介してですが、おじいちゃんおばあちゃんたちは大いに盛り上がっていました。さすがプロ! 義母がハマるのもわかります。
とりあえず10万円の布団には手を出さなかった義母ですが、サプリメントを購入しました。そのときも私は「詐欺だから買うな!」と止めたのですが、夫が勧めたのです。「毎日通って、何も買わずに機械を使わせてもらうのはよくないよ」と。それじゃあ相手の思うツボなのに、完全にしてやられてます。
しかし、お店の様子を見ていると、単純に詐欺とも言えません。
「健康器具が無料で使えるし、日本の先生が一人ひとりにアドバイスをしてくれる」と、みんな喜んでいるし、6~7人いる若いスタッフが「おじいちゃん」「おばあちゃん」と話しかけてくれるのも楽しいみたいだし。そして何よりも、お客さん同士が「これは本当にいいから、買った方がいいよ」と、商品を勧め合っているので、セールスの必要がないのです。
今、タウンジーにいる日本人は、私と長男とそのおじさんだけなので、一度、セミナーではなく会いに行ったことがあります。しかし、どうしても怪しい感がぬぐえなかったので、日本大使館の人にちらっとおじさんの話をしました。すると「それはゆるやかに退去してもらったほうがいい」と。
ん? 世間話の延長線で話したつもりだったのに、思った以上にオオゴトの展開になりそうで、ちょっと焦った私(笑)。しかも、「そのおじさんが飛行機に乗る日がわかったら、教えてほしい」という密命が、大使館から私に下されたのです!
その後、夫が経営している旅行代理店で、おじさんが飛行機のチケットを買ったので、009気分で大使館に知らせたのですが、特に動きなし(笑)。
9月になれば、私の出産を手伝いに、義母がタウンジーにやって来ます。無料のマッサージ機ならいくら楽しんでもいいけど、10万円の布団に手を出さないかとハラハラする日々になりそうです。