ご無沙汰しています。百地裕子です。2019年秋、人生で越えなければならない壁にぶつかり、奮闘していたら久しぶりの執筆となってしまいました。壁はなんとか無事に乗り越えることができたのですが、そうこうしているうちに次なる試練が訪れました。そう、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)です。
この「新型コロナ禍」で皆さんの生活も大きく変化していると思いますが、プロゲーマーの生活もがらりと変わりました。世間的には緊急事態宣言下でも「デジタル産業は被害が少ない、もしくは伸びている」といった印象があるかと思いますが、今、世の中のプロゲーマーたちはどうしているのか――今回はそこをお話ししたいと思います。
オンライン大会は意外と問題が多い
まず、プロゲーマーに一番大きな変化をもたらしたのは、国内外の大会がほとんど中止になったことです。例えば「ストリートファイターV」をメーン競技として活動する私たちのようなプロ格闘ゲーマーは、毎年3~12月は世界各国で開催されるプロツアー大会に参加しています。競技シーズン中は月1~2回、多い時は毎週のように飛行機で移動しながら海外を転戦するのですが、今年は夏頃までの海外大会は、ほぼ全て中止になりました。毎年夏にアメリカのラスベガスで開催されている最大規模の世界大会「EVO(Evolution Championship Series)」も、5月2日に中止が発表されました。
海外だけでなく、国内の大会もほとんどが中止か延期となっており、プロゲーマーの活躍の場がなくなっている状態です。都内にいくつかあった練習施設も営業を休止しているので、プレーヤーは自宅練習を余儀なくされています。
会場に人を集めて大会を開催できないのであれば、オンライン対戦システムを使えば良いのでは? と思う人もいるかもしれません。先ほどの「EVO」もオンラインでの開催計画が進められています。が、オンライン大会にはいくつか問題点があります。第一に、プレーヤーは自宅等から参加可能になりますが、運営側は競技開始の度に参加者を呼び出したり、結果を集計したりしなければならなくなります。参加者が200人を超える規模だと、通常の大会運営であってもとても大変です。それをオンラインでリモート運営するとなると、全てのスタッフはもちろん、参加者もオペレーションに習熟していないと大会進行に遅滞が生じ収拾がつかなくなりかねません。
第二に、大半の格闘ゲームではオンライン対戦とオフライン対戦でゲーム性が違うものになってしまうという問題があります。どちらが良い悪いという話ではなく、インターネットの回線を介することで操作にラグ(遅延)が発生してしまうので、オフライン大会とオンライン大会では同じように試合はできないのです。
例えばオフラインでは反応できている攻撃でも、オンラインだとコントローラーを操作してキャラクターが動くまでのタイミングがほんの少し遅れるので、より反応速度を上げなければいけなくなります。オフライン対戦でギリギリ反応できていたような攻撃には、大抵ついていけなくなります。察知していても反応できない攻撃が増えることで、互いに攻撃が通りやすくなる(=強くなる)ためゲーム性が変わるのです。
国内での対戦ならインターネットの質が良ければラグの影響はそこそこ減らせますが、良い通信環境であったとしても回線には相性もありますし、ラグは一定ではなく変化もします。ですのでオフラインでの対戦が大会のベースとなっている格闘ゲームにとっては、公平性や競技性をオンライン大会で担保することは現状難しいのです。まして海外とのオンライン対戦は、距離があるだけより大きなラグが発生するため、更に厳しいでしょう。もちろん元々の仕様がオンラインをベースにしたゲームであれば大会実施は可能ですので、そこはゲームタイトルによっても変わります。
生き残りを懸けた対応が迫られている
大会の中止と同時に、イベント出演の仕事もなくなりました。イベント自体が開催できる状況ではありませんので仕方がないですね。私はテレビ取材の話をいただいていたのですが、「緊急事態宣言を受け直接取材をすることができなくなってしまったので、どのように番組を制作するか構成を再検討する」とのことで、それもなくなる可能性があります。
プロゲーマーたちにとって大きな活躍の場である「東京ゲームショウ」も、9月24〜27日に予定されていた幕張メッセでの開催が中止となりました(5月8日発表)。私にとっても毎年、新作ゲーム発表のステージイベントに呼んでいただいたり、スポンサー企業さんのブースへ出演したりなど、東京ゲームショウは日頃応援していただいていることへのお礼ができる貴重な機会です。ファンの方にも直接お会いできるし、大規模な大会が開催されるのでプロゲーマーとして多くの人に雄姿を見てもらえるなど、非常に重要なイベントなのです。
こちらもオンラインでの開催を検討中とのことで、どのように実施されるのか気になるところです。
このように大会やイベント、メディア取材といった機会がなくなったことで活躍の場は減ってしまい、競技やプロモーション活動に費やしていた多くの時間が空いたプロゲーマーたちは、情報配信などに注力するようになりました。インターネットの動画配信サイトで生放送を行ったり、動画コンテンツ制作をしたりと、今までは大会出場の合間に実施していた配信活動をメーンに切り替えている選手が多いです。ただ、他の業界の人たちも同じで、生放送を実施する人も動画投稿をする人も圧倒的に増えているので、視聴者獲得争いは激化しています。
あと変化と言えば、レーサーやアスリート選手のeスポーツへの進出が急増しています。例えばモータースポーツ界では、レースが開催できないので「グランツーリスモSPORT」などのレースゲームをプレーし、それを生放送や動画で公開するプロレーサーがにわかに増えて盛り上がっています。開幕が無期限に延期されているF1も、公式バーチャルグランプリを開催していますし、今後このような変化はより広がるのではないかと思います。
かくしてeスポーツ自体は他ジャンルからの参入が相次ぎ、規模は大きくなっていますが、プロゲーマーたちは次第に追い詰められつつある状況となっています。ただゲームをプレーして配信しているだけでは生き残れないので、企画力やリサーチ力を早急に高め、対応していく他ありません。