うだるような暑さが続いています。アトリエ周辺では今年の夏は高温になる日が多く、野外を散策する時には熱中症の対策が必要です。
私は真夏になると琵琶湖の浜辺によく足を運びます。真っ青な空に白い積乱雲が立ち上っている風景もきれいなのですが、私のお目当てはトンボたちです。アトリエから一番近い岸辺は天神川河口で、それほど広い場所ではないのですが、砂浜が広がっていてヨシ原もあり、タチヤナギの大木も見られます。雄琴湾(おごとわん)につながっているので波は静かで、いろいろな水鳥にも出会えます。
このような環境はトンボたちの楽園です。特に、ある程度の深さのある池を好むトンボたちにとっては好都合なのです。ここで見られるトンボはすべて平野に生息している種類です。平野は山間部に比べて水質が悪化しやすいため、全国的にトンボの種類数は減少していますが、琵琶湖の周辺は水域が豊かなので多くの種類が見られます。渓流と違って河口や湾は、止水性のトンボの宝庫です。
止水性のトンボをまず挙げるとしたら、チョウトンボでしょう。チョウトンボは色のついた大きな翅(はね)を持つ、名前のとおりチョウのようなトンボです。飛んでいる時は、風に乗るようにフワフワと優雅に舞っています。オニヤンマのように颯爽(さっそう)と通り過ぎるのではなく、いつまでも同じ所で揺らいでいます。その姿はまさにチョウのようです。
こんなにのんびりしたトンボなのですが、子どもたちの捕虫網の中に入ることはめったにありません。高所を飛ぶということもありますが、池の中央を舞っていることが多いので網が届かないのです。チョウトンボは深い池を好むので、人が近づくことができません。子どもの頃は遠い存在でした。
一度だけ、水辺のヨシ原で羽化したばかりのチョウトンボを発見したことがあり、その姿を間近で見て翅の美しさに息を呑みました。藍色の中に金属色の緑色が複雑に交じり合い、まるで宝石のような輝きを放っていたのです。こんなに美しいトンボなのに、人の目にあまり触れることなく暮らしているなんて、自然というのは何と奥深いのでしょうか。
琵琶湖のトンボをもう1種類挙げるとしたらウチワヤンマです。尾の先がヘラのように広がっていて、呼吸をするたびに動きます。まるで団扇(うちわ)をあおいでいるようにも見えます。ウチワヤンマは岸辺にもやって来て、枝や棒杭(ぼうくい)の先端によく止まるのでけっこう接近はできるのですが、このトンボもなかなかのくせ者。上段の構えから捕虫網を振り下ろして捕らえようとすると、網は枝に引っ掛かり見事に破れてしまいます。何度悔しい思いをしたことでしょう。
琵琶湖の岸辺では、暑さに負けずに、今日もトンボたちが飛び交っています。
止水性のトンボ
トンボは、湖や池などに生息する「止水性」の種と、川や水路などに生息する「流水性」の種に分けられる。