アジサイの花が咲き始めました。アマガエルの合唱も少しおさまり、田園が静かになってきました。数日おきに降る雨のせいでしょうか、ムッとした湿度の高い風が、肌をなでてゆきます。
「光の田園」にある「めいすいの里山」の湿地は、ショウブやスゲの仲間が生い茂ってなかなか良い雰囲気です。湿地の縁に腰を据えて眺めていると、いろいろな種類のトンボが行き交っています。水草に覆われたこのようなため池や湿地を復活させたかったのでうれしいかぎりです。この貴重な環境が蘇ったのは、めいすいの里山の再生に関わられている皆さんの努力のおかげです。
めいすいの里山は子どもたちが大好きな水生昆虫が多い湿地だ。(撮影:今森元希)
かつては、小さなため池が仰木から伊香立(いかだち)の野辺に点在していました。もともとは農業用ため池として使われていたものなのですが、管理されない状態で池の周囲が浅瀬になり、水生植物が繁茂するようになったのです。こうしたため池は、自然池に環境がよく似ているので、水生生物の楽園となります。当時はお気に入りのため池が数カ所あり、足繁く通っていました。
そんな時にいつも元気よく出迎えてくれたのは、オオシオカラトンボでした。30年以上前のことですが、田んぼに農薬がたくさん散布されていた時期に、シオカラトンボやコシアキトンボなどのごく普通のトンボが姿を消したことがありました。そんな過酷な環境に屈することなく元気な飛翔姿を見せてくれていたのは、オオシオカラトンボでした。この経験から、このトンボは水質汚染に強いというイメージが私にはあります。
羽化したばかりのオオシオカラトンボのオス。(撮影:今森元希)
オオシオカラトンボは、とても美しいトンボです。オスの成虫は織物の絣(かすり)の地色のような深い紺色をしています。複眼や翅(はね)の基部が黒く、がっしりとした印象を与えます。一方、メスの方は、黒地に黄色い斑紋をもっていて、一見サナエトンボに見えることもあります。とても同じ種類に見えないので、交尾している時などは、オスとメスの色のコントラストに一瞬驚いてしまいます。
オオシオカラトンボは、めいすいの里山の湿地でもよく誕生します。早朝にスゲの葉の間を観察していると、羽化したばかりのこのトンボに出会います。ただし、誕生してからしばらくは、オスもメスのような黒と黄色の体をしているので要注意です。
羽化したての翅は、油を塗ったようにテカテカしている。(撮影:今森元希)
今年も、ため池でオオシオカラトンボを見かけるようになりました。これからめいすいの里山の木々に伸びる葉の緑は、一段と濃くなってゆきます。いよいよ夏も間近です。
めいすいの里山から眺める初夏の仰木の田んぼと琵琶湖。(撮影:今森元希)
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「光の田園」
アトリエのある滋賀県大津市仰木地区の谷津田の愛称。美しい棚田が広がる。

「めいすいの里山」
生きものが集まる環境を取り戻すために、2017年から里山再生プロジェクトを行っている仰木地区にある谷津田。
