アトリエの雑木林に涼しい風が吹いています。初秋に紅葉したヤマウルシは、早くも葉を落として冬支度を始めています。モズの声を聞きながら、午後の光を受けてやや黄ばんだ木々を逆光で眺めていると、秋本番がやって来たことを実感します。
そんな頃、ホオノキの実が赤く色づきます。ホオノキは里山ならどこにでもある樹木で、大きな葉をつけるので遠くからでも存在感があります。雑木林の伐採地で切られたホオノキは、萌芽更新してすくすくと伸びてゆきます。荒れ地でも真っ先に生長するアカメガシワと同じく、パイオニアツリーなのでしょう。
ホオノキは、コブシやタムシバなどと同じモクレンの仲間で、葉も枝も良い香りがします。私は葉の大きな植物が好きで、ホオノキには特にこだわってきました。広い葉は料理などにも重宝され、お皿に使ったり、ご飯を包んだり、いろいろと利用価値が高いのです。有用植物なので「オーレリアンの庭」でも3本育てていますし、「萌木(もえぎ)の国」には20メートルくらいの大木があります。
ただ不思議なことに、野外で手頃なサイズの幼木を見つけることは困難です。アトリエの雑木林に植えたホオノキは、とても小さな幼木を鉢植えして、数年間育ててから地植えしたものです。
また、ホオノキの花を間近に観察するのも意外に難しいものです。成長した木の高い所に花を咲かせるため、観察するチャンスはめったにありません。「オーレリアンの丘」の斜面には高さ10メートルくらいのホオノキがあり、ここでは、比較的低い所で観察できます。
運良く実に接近できて手に持つことができた人は、その大きさに驚くことでしょう。姿はとてもエキゾチックで、オーストラリア原産の観葉植物のバンクシアの実のようでもありますし、ドラゴンフルーツのようなボリューム感もあります。
この実を1週間くらい放置しておくと、小さな亀裂がいっぱいできて、中から真紅の種が顔を出します。種はツヤツヤしていてトウモロコシの実のようでもあります。熱帯の植物にも、このような姿のものがあったような気がします。種はやがて殻から落ちるのですが、栽培する時はそれを土に埋めておくとホオノキが芽を出すというわけです。
秋が終わりに近づくと、ホオノキの下には、焦げ茶色の実の殻がたくさん落ちています。種のほとんどは鳥たちが食べてしまいますが、このことによってホオノキの種は遠くに運ばれます。つまり鳥たちが、ホオノキの種の旅のお手伝いをしてくれているのです。
萌芽更新
伐採した切り株から新しい芽が出て成長することを利用し、森林の再生を図る手法。
パイオニアツリー
森林の伐採地や土がむき出しになった裸地(らち)など、他の木がまだ生えていない場所で真っ先に育つ性質をもつ木のこと。
「オーレリアンの庭」
今森さんのアトリエの庭の通称。「オーレリアン」とは「蝶を愛する人」という意味で、庭には蝶や昆虫が集まる草花を植え、育てている。
「萌木(もえぎ)の国」
琵琶湖の北部、滋賀県高島市マキノ町にある、今森さんが30数年前から管理している雑木林。
「オーレリアンの丘」
仰木地区の「光の田園」をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。