太陽の光が強くなってきました。梅雨明けはもう間近です。アトリエの雑木林は、枝葉に覆われ薄暗くなっています。そんな林内をよく見てみると、ヒカゲチョウの仲間が幹の周りをぐるぐると旋回しながら飛んでいます。さらに静かに観察していると、ブーンという羽音が聞こえ、オオスズメバチもやって来ます。そうした幹には必ず樹液が染み出していて、それを目当てにいろいろな昆虫たちが集まって来ます。
下草刈りなどの世話をしているアトリエの雑木林。(撮影:今森元希)
樹液というと、真っ先にカブトムシやクワガタムシを思い浮かべます。子供の頃、早朝に起きてクワガタとりに出かけた経験のある人は多いのではないでしょうか。カブトムシの仲間は私の住んでいる場所では2種類だけですが、クワガタムシの方は数種類います。その中でも一番人気があるのは、ノコギリクワガタだと思われます。大顎にギザギザの歯が並んでいるので「ノコギリ」という名前をもらっているのでしょう。
美しい曲線をもつノコギリクワガタの大顎。(撮影:今森元希)
体を横から見ると、大顎は美しい曲線を描いて下の方に伸びています。このフォルムが牛の角に似ているので、子供の頃は、“うし”という愛称で呼んでいました。“うし”は闘牛のように喧嘩早く、刺激を与えるとすぐ興奮します。大顎を最大限に開いて威嚇しますが、その中に指を入れようものなら、一撃で挟まれてしまい、「ギャー」という声を上げることになります。ただ、怒り方はあっさりしていて、挟んだ大顎はすぐに緩めてくれます。そして、そのあとは足早に逃げることもあるのです。一撃を食らわしてさっさと逃げるというちゃっかりとした習性があるために、野外で遊んでいるとよく見失ってしまいます。
体をしっかり持つと大顎に挟まれない。(撮影:今森元希)
このように、子供にとっての遊び相手としては申し分ない昆虫なのですが、残念なことに最近は、里山の中で見かける機会が少なくなっています。原因は、ノコギリクワガタが暮らせるような雑木林が減っていることです。かつての雑木林は、人が枝や下草を刈ったりして風通しを良くしていました。クヌギやコナラなどが薪になったり、シイタケのホダ木になったりして、役立ったからです。空間のある雑木林には、カミキリムシやスズメバチなども入って来られるので、木々も樹液をたくさん出します。また、人が定期的に伐採するクヌギやコナラは、ノコギリクワガタの幼虫の住処にもなりました。とにかく、人が世話をする雑木林がなくなったのが一番の理由なのです。
今年もノコギリクワガタの勇姿に出会える季節がやってきました。心がワクワクする雑木林があちこちに戻って来ることが私の願いです。
7月頃のオーレリアンの丘の農地。(撮影:今森元希)
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