冬は遠くの景色が見渡せてとても気持ちがいいです。白くなった山々が心を癒やしてくれます。仰木(おおぎ)地区のどこからでも見える比良山地(ひらさんち)は山岳信仰の山として知られる奥山的な存在で、まさに神様が宿る場所と呼ぶにふさわしい風格をもっています。一方、すぐ裏にある比叡山(ひえいざん)も人々の信仰と歴史のあるとても良い山なのですが、針葉樹が多いため季節感が乏しいのがちょっと残念です。
この季節の仕事は、いろいろとありますが、オーレリアンの丘では、竹切り作業が待っています。竹は荒れていたこの土地を農地として開墾する時に全神経を使って戦ってきた相手なのですが、一部を竹林として残すために地下茎を取り除いていない場所があります。ここに再生する竹林は、毎年、伐採整備をしなくてはなりません。仲間が集って行うこの竹切り作業は、ここ数年は季節行事のようになっています。休憩の時に火を起こしてサツマイモを焼いて食べ、雪化粧した比良山地を眺めると、なんとも心が洗われます。
そんなオーレリアンの丘では、農地づくりも進んでいます。親しい専業農家のAさんが、大型トラクターで土を撹拌(かくはん)してくれ、時期としてはやや遅いのですが、年の暮れに大麦の種をまきました。ここ数年来、仰木地区では大麦を作る人が多くなりました。大麦は、麦ごはんとして食べるだけでなく、ビールの原材料にもなります。最近は琵琶湖の周辺にもビール工房ができてきて、地ビールがさかんになってきました。そんな中で、休耕田を利用した麦畑は、将来が期待されているようです。
私の場合は、大麦を出荷するほどの規模ではなく、あくまでも景観づくりとして始めました。大麦の種をまいた場所は、これまで2年ほど、菜の花畑にしていた所で、連作障害を防止する意味においても良いアイデアだと思ったからです。
ただし、仰木地区に住む人はお米を作る田んぼに目が慣れていますので、麦畑の景観に拍子抜けしてしまうことがあるのも事実です。たとえば、麦畑と田んぼでは季節感が大きく変わってきます。その極みは初夏で、青々とした田んぼと違って、麦畑では6月にセピア色の平原になり、「麦秋」と呼ばれるように、まるで秋のような風景に見えてしまいます。また、麦づくりは湿地を必要としないので、春から初夏にかけて、アマガエルやトノサマガエルの鳴き声がほとんどしなくなります。そのため、それらを餌にしているチュウサギやアオサギなどの水辺の鳥たちの姿も見かけなくなります。赤トンボの仲間たちもどこに行くのでしょうか。これは、生き物好きにとっては寂しいことではあります。
果たして、今年はオーレリアンの丘に麦の穂は輝くでしょうか。比良山地を背景に麦秋の彩りが見られることを楽しみにしています。
オーレリアンの丘
仰木地区の「光の田園」をのぞむ小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。
「麦秋」
麦の穂が実り、刈り入れをする初夏の頃のこと。