雑木林の葉がすっかり落ちました。落葉直後の林はセピア色の絨毯を敷き詰めたようで、空間が広々と感じられます。でもこの風景も束の間、年の暮れになると強い北風が落ち葉を運び去って一箇所にまとめてしまいます。
こんな頃、アトリエの庭には可愛い小鳥たちが毎日のように顔を見せています。その筆頭はジョウビタキ。おなかがオレンジ色で美しい鳥です。ヒタキの仲間は、オオルリ、ルリビタキ、キビタキなどたくさんの種類がいますが、どれもいかにも小鳥らしい姿をしていて私は大好きです。
ヨーロッパの絵本などには庭に置かれたじょうろの上や窓際に止まっているコマドリの姿がよく描かれていますが、この鳥もジョウビタキの仲間です。コマドリは日本では山地の森林に住んでいますが、ヨーロッパでは人家の近くにやって来る好奇心旺盛でフレンドリーな鳥なのでしょう。ジョウビタキも庭が好きなので、まさに「里山のコマドリ」と言ってもよいかもしれません。
ジョウビタキというとこんな思い出があります。私は子供の頃、滋賀県大津市内の町家造りの家で育ちました。長細い敷地の真ん中に坪庭があって、縁側越しにその風景を眺めたものです。石灯籠の横に大人の背丈ほどのアオキが2本植えてありました。1本は雄株、もう1本は雌株で、雌株には冬になると真紅の実がなりましたが、その実を楽しみにやって来る鳥がジョウビタキでした。アオキは常緑樹なので、身を隠すのにも都合がよかったのでしょう。
くちばしの付け根に鋭いひげを生やした精悍(せいかん)なこの鳥は、私のことを警戒しながらも庭に降りてきました。アオキの葉の茂みの中にもぐると、実を一粒くわえるやいなや飛び去って屋根瓦のひさしに羽を休めました。その時のジョウビタキは、私が子供だったせいでしょうか、とても大きく見えました。
アトリエに来るジョウビタキは、庭の畑の竹棒の先や稲木の天辺などによく止まります。どうやら見晴らしがよい場所が好きなようです。また、車のバックミラーの上にもよく止まります。自分の体が鏡に映り込むので、珍しいのでしょうか。ホバリングをしながら自分の姿を見ては、ミラーの上で一休み。それを何度も繰り返します。その様子は、遊んでいるようにしか見えません。ただし、困ったことが一つあります。それは、ミラーが糞だらけになって、常に掃除をせねばならないことです。
今日もジョウビタキが窓辺にやって来ました。私の顔を見ているのかと思ったら、どうやらガラスに投影される自分の顔を眺めているようです。茶目っ気たっぷりの愛嬌者、それがジョウビタキなのです。
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