今年も春がやってきました。土手の緑が日に日に濃くなっていきます。毎年同じ繰り返しなのに、3月というのは不思議なもので、心がワクワクしてきます。
雑木林に続くアトリエの小道では、越冬から目覚めたキタキチョウやキタテハなどに出会います。しかし、一番うれしいのは、今年の春に誕生したばかりのみずみずしい蝶を発見すること。その筆頭はなんと言ってもコツバメでしょう。
コツバメは4枚の翅(はね)を開いても1円玉くらいの小さなシジミチョウの仲間です。翅の表はくすんだ青白で、裏面は茶褐色です。こんなチョウが木々の間をチラチラと小忙しく飛んでいても、誰の目にもとまらないかもしれません。けれども、よく観察すると、翅表の青色は陶器を思わせる渋さをもっていますし、翅裏には複雑な模様が描かれていてほれぼれとしてしまいます。
コツバメは、一年を通じて春の季節にしか現れません。魅力的な蝶であるにもかかわらず、ほとんどの人に認知されないまま終わってしまうのがとても惜しいと思います。
コツバメは、ちょっと面白いポーズをとるのが特徴です。枯れ葉にとまった時や花の蜜を吸う時に、翅が太陽の光を受けやすいように体を傾けるのです。光の角度によっては、ほとんど倒れたような姿勢になることもしばしばです。その習性を知らないと、「あれ? この蝶は体が弱っているのかな」と勘違いするほどです。
近年の研究で、モンシロチョウの翅には太陽光パネルよりはるかに優れた集光効果があることがわかっていますが、コツバメも効率よく早春の温かさを受け止めているに違いありません。
コツバメの幼虫は、ツツジの仲間の花びらや蕾(つぼみ)を食べて育ちます。なので、春になると真っ先に花芽をつけるアセビやミツバツツジなどが重要な食樹となります。これらの木は、定期的に伐採される明るい雑木林を好むので、コツバメもそのような環境でよく見られます。
最近は、コツバメの数が減少したように思います。雑木林が放置されてクヌギやコナラが大木になりすぎたことや、林床の空間をネザサやノイバラなどが覆ってしまったことが原因です。背丈の低いアセビやミツバツツジは、下草刈りなどの手入れがなされないと光が当たらず、雑木林では勢力が弱くなってしまいます。
私のアトリエでは、毎年、コツバメが目を楽しませてくれます。この小さな妖精は、里山の健全さをあらわす生命。大切にしたいものです。
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