コスモスの花が風に揺れています。毎年どこかでピンク色の花畑を目にしますが、艶やかな花のじゅうたんに出会うと、思わず立ち止まって眺めてしまいます。秋晴れの時は、真っ青な空と真っ白な雲との組み合わせも抜群で、これ以上、秋を感じさせる色合いはないでしょう。
晴れた日のコスモス畑は秋そのもの。(撮影:今森元希)
この時期になると、私は天神川をよく訪れます。天神川は、仰木(おおぎ)の棚田や旧家群を貫く一級河川。上流には、水神様が祀られています。緩やかな渓谷を上っていくと、滝壺神社に行き着きます。仰木は昔から渇水に見舞われることが多く、田植えの頃には、苦労が絶えなかったようです。この辺りにため池が多いのは、水が貴重であることの証です。
40年くらい前、ため池の生きもの調査をした時に、農業用ため池の所在地を記した地図を市役所から手に入れましたが、滋賀県大津市だけで300個以上のため池があったのには驚きました。実際にフィールドワークをしてみると、地図には載っていないたたみ数畳分くらいの小さなため池をたくさん発見しました。想像するに、当時現存したため池は1000個くらいの数があったかもしれません。とにかく、天神川が仰木の農家にとっては、命の川であることには違いありません。
天神川の上流には、小さな川原もある。(撮影:今森元希)
そんな川の縁に、秋になると私は無性に行きたくなります。それは、ひょっとしたらあの美しい鳥がやって来ているかもしれない、という期待感があるからです。その鳥は、キセキレイ。キセキレイは、腹部が鮮やかなレモン色をした鳥で、長い尾を持っています。地上に降りている時は、腰を上下に振るので、長い尾をペコリペコリと地面を打ち付けているように見えます。この習性は、同じ仲間のセグロセキレイやハクセキレイにも見られますが、キセキレイが一番リズミカルであるように私には見えます。それと、波型を描くように優雅に飛ぶのもキセキレイの仲間の特徴です。
川原に舞い降りたキセキレイ。枯れた竹の上を器用に歩いている。(撮影:今森元希)
キセキレイは、夏場は川の上流で暮らしています。セグロセキレイなどが通年見られるのに対して、キセキレイは移動型だといえます。天神川はあまり奥行きがないので、夏場はさらに山深い所に飛んで行くようです。この辺りだと比良山地(ひらさんち)の裏手にある朽木村(くつきむら)(現・高島市朽木)方面でしょうか。
朽木村には琵琶湖を河口にもつ安曇川(あどがわ)が比良山地を巻いて身をくねらせています。最上流には、ブナの森があり、分水嶺の向こうは京都の深山です。安曇川は、夏は鮎釣りやキャンプをする人たちでにぎわうのですが、谷が深いので人混みを心配することはありません。天神川に来てくれるキセキレイは、どうやらこの辺りからやって来るようです。
今年も天神川に行ってみると、川原に黄色と黒色の閃光が走りました。キセキレイに出会える季節がやって来ました。
天神川の上流は、浅瀬が多く歩きやすい。(撮影:今森元希)
*写真の複製・転載を禁じます。