比良山地(ひらさんち)の頂の雪もすっかり姿を消しました。気温が上がって春爛漫(らんまん)です。この季節、やはり気になるのは桜のこと。湖西・湖北では海津大崎の桜並木が有名です。今まで何度も撮影で訪れていて、琵琶湖岸に並ぶソメイヨシノの古木は壮観なのですが、とにかく観光客が多いのでゆっくりできません。
私が大好きな桜は、人知れず佇んでいる一本桜。これまで、全国の里山を取材して各地で一本桜を見てきました。特に中部地方から東北地方にかけての枝垂れ桜やヤマザクラは、心打たれる木がたくさんあって、今でも写真を見ると出会った時の感動が蘇ってきます。
福島県三春町はそれこそ桜の名所で、撮影で1カ月間くらい滞在したこともあります。長くいると特別な日もあって、ある時は寒の戻りで降雪となり、雪化粧した桜の花を撮影する機会に恵まれました。その幻想的な風景は今なおくっきりと目に焼きついています。
地元の滋賀県で私がよく訪れる一本桜は、竹生島(ちくぶしま)を臨むエドヒガンの古木。枝がのびのびと育って、たいへん樹形が良いのです。ここは、ほとんど人が訪れず、一日中のんびりできます。天気が良いと、芝枯れの上を成虫で越冬していたキタテハやアカタテハが飛び交っています。
湖北地方にあるエドヒガンの一本桜。竹生島を遠くに眺められるが、人はほとんど訪れない。(撮影:今森元希)
それから、私のアトリエのすぐ近くにも一本桜があります。これもエドヒガンで、私との出合いは40年以上前になります。棚田の上にあり、どこからでも眺められるので、田植え桜として農家の人に愛されてきたのでしょう。初めて見た時には名前がなかったので、私は「棚田ザクラ」という愛称をつけました。棚田ザクラのすぐ下には、半楕円形のユニークな形の棚田があり、これは「馬蹄形の棚田」と名づけました。棚田ザクラは、写真集に掲載したりNHKのテレビ放送でも取り上げたりしたので有名になり、人が見に来るようになりました。桜が満開の時は、ちょうど田植えの始まりと重なって作業の邪魔になるといけないので、当時の地区の連合会長と話し合って近くに駐車場もつくっていただきました。
見晴らしの良い場所に立つエドヒガンの古木、仰木の棚田ザクラ。(撮影:今森元希)
最近よく訪れるのは、苦労して開墾した「オーレリアンの丘」にある枝垂れ桜です。それほど古木ではないのですが、堂々として見事に花を咲かせます。オーレリアンの丘の敷地内なので、遠慮なくこの桜の小枝を切り取り、アトリエに飾るようにしています。八重の花がとてもかわいらしく、春を堪能できます。
今年も、「光の田園」のあちこちでヤマザクラの開花が始まろうとしています。そろそろ農家の人たちの仕事も忙しくなります。
オーレリアンの丘にある枝垂れ桜。敷地内には、樹齢150年を超えるヤマザクラもある。(撮影:今森元希)
枝垂れ桜の小枝を花瓶に飾ると、部屋に本格的な春がやってくる。(撮影:今森元希)
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「オーレリアンの丘」
仰木地区の「光の田園」を臨む小高い場所にある農地。生物多様性を高めるための農地を目指して環境づくりを行っている。
「光の田園」
今森さんのアトリエのある滋賀県大津市仰木地区の谷津田の愛称。美しい棚田が広がる。