木々の葉が色濃くなってきました。光と影が織りなすコントラストが、子どもの頃の夏休みのワクワク感を蘇らせてくれます。数十年前までは、田園には小さなため池があって、子どもたちの遊び場になっていました。しかし残念なことに、琵琶湖の周辺を見渡しても、今ではもうそんなため池に出会うことはありません。
アトリエの近くに、里山再生をしている場所があります。生きものが集まる農地を取り戻すべく企業が応援してくれているのが「めいすいの里山」です。ここで取り戻したかった環境の一つが、子どもたちが遊べる湿地です。めいすいの里山は谷津田になっていて、雨水などが山水となって流れ込み、いろいろな条件が満たされて湿地の再生はうまくいきました。プロジェクト開始から10年近く経過して、ようやく自然が好きな子どもたちにとって、夢のような楽園が出来上がりました。
緑濃い初夏のめいすいの里山。(撮影:今森元希)
ここの湿地では何種類ものトンボを見かけますが、夏の初めに多いのがコシアキトンボです。このトンボの特徴は、成熟したオスの腹部にある白い帯状の文様。複眼も含めて全身黒色であるばかりか、翅(はね)の付け根も黒いので、真っ白な部分が際立って、まるで光を放っているように見えます。私の祖母は「電気トンボ」と呼んでいましたが、よいニックネームです。
コシアキトンボのオスは、湿地やため池の中程を飛び回っています。かなり暑い日でもひがな一日元気よく巡回しているので、いったいいつ休憩するのだろうと心配になってきます。

オスは、純白の帯文様をもっている。(撮影:今森元希)
コシアキトンボは「オーレリアンの庭」にもよくやって来ます。小さなため池のあるガーデンエリアではオスが飛んでいるのですが、建物に近い木立に囲まれた狭い空間では、メスが同じところをグルグルと回っています。オスの縄張りのための飛行とは意味が違っているようです。根気よく観察していると、不意に木立の中に入り込み、枝に翅を休めました。メスはオスと違って帯文様は薄黄色で、そこに黒い帯が一本入っています。

小枝にとまったコシアキトンボのメス。(撮影:今森元希)
子どもの頃、この不思議なトンボを採りたいと、虫網を握ってどれほど粘ったことでしょう。ギンヤンマの採集の時にやる、トンボのお尻の方から網を振る戦術は、コシアキトンボには通用しませんでした。人の気配をあっさりと察知して、身を翻し危険を回避してしまうのです。どうやら子どもの運動神経より上手(うわて)をいっていたようです。
観察会などのイベントの時、コシアキトンボを狙って、真剣な表情で虫網を構えている子どもたちの顔を見ていると、ほのぼのとしてうれしくなります。
巡回飛翔するコシアキトンボ。(撮影:今森元希)
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「めいすいの里山」
生きものが集まる環境を取り戻すために、2017年から里山再生プロジェクトを行っている仰木地区にある谷津田。
「オーレリアンの庭」
今森さんのアトリエの庭の通称。「オーレリアン」とは「蝶を愛する人」という意味で、庭には蝶や昆虫が集まる草花を植え、育てている。