着床すると、胚盤胞の外側から絨毛(じゅうもう)が出てきて子宮内膜の中に進入し、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンを分泌する。そのため着床直後からhCG値は徐々に上昇し、排卵後に卵巣内にできる黄体(おうたい)が消失しないよう働きかけ、黄体のプロゲステロン(妊娠継続に必要なホルモン)分泌を促進させる。妊娠判定では、hCGが妊婦の尿に検出されるかどうかを調べる。妊娠が確認できる頃には、胎児の脳、眼、心臓、四肢、歯、口唇の形成は始まっている。
胎児は胎盤とへその緒を通じて母体から生存・成長に必要な酸素や栄養分を受け取る。それと同時に胎児が排出した二酸化炭素や老廃物を母体の血中に送り出すが、それ自体が母体に悪影響を及ぼすことはない。
妊娠3週頃から母体の血漿(けっしょう)成分が胎芽を包む羊膜(ようまく)で濾されて羊水となり、胎児を外部からの衝撃から守り保温する、胎児の動きによる子宮への圧力を軽くするなどの役割を担う。胎児は羊水を飲んでは尿として排出するので(「胎児循環」)、妊娠週数が進むにつれ、羊水のほとんどは胎児の尿になる。羊水の量が多すぎても少なすぎてもトラブルにつながるため、妊婦健診で定期的にチェックする。
「よく言われる妊娠の兆候には個人差があり、あてはまる症状の有無で判断するのは難しいと思います。基礎体温を測って高温が18日以上続く場合は間違いなく妊娠していますが、基礎体温を測っていない人もいますし、月経が不規則な人は月経の遅れも気づきにくいでしょう。不妊治療を受けている患者さんでも、まったくなんのサインもなく、妊娠7週頃まで気づかない人もいたりします。市販の妊娠検査薬で調べればほぼ確実にわかりますが、使用できるのは妊娠4週頃(直近の月経予定日の1週間後くらい)からです。医療機関で行う検査ならもう少し早く、妊娠3週後半頃から妊娠判定ができます。着床しても妊娠が継続されないこともあるので、市販の検査薬で妊娠がわかったら、妊娠5週頃には医療機関で検査を受けましょう。超音波で子宮の様子をチェックし、筋腫の有無や子宮外妊娠(異所性妊娠)などの異常がないかどうかを確認するためにも、妊娠5週頃の検査はとても大切です」(西先生)
〈妊娠を継続できない主なケース〉
・流産
妊娠22週未満までに妊娠が中断してしまうことで、そのほとんどは染色体異常など胎児に原因がある。また、強いストレスによって免疫の状態が悪化すると、受精卵を『異物』として排除する力が働くなどの影響があると言われている。全妊娠数の約15%が流産となり、そのうち8割以上が12週未満で起こる「早期流産」である。流産のリスクは週数の経過とともに低下し、妊娠8週には3%、12週以降は0.6%となる。12週以降から22週未満の流産は「後期流産」と呼ぶ。流産を3回以上繰り返す「習慣流産」では、両親が何らかの疾患を持っている可能性もあるが、検査しても原因がわからないこともある。
「切迫流産」は、流産の一歩手前で胎児が子宮内に残っている状態であり、妊娠を継続できる場合もある。
・異所性妊娠(子宮外妊娠)
卵管、卵巣、腹膜、子宮頸管など、子宮内膜以外の場所に受精卵が着床すること。全妊娠数の1%程度で発生し、このうち約95%が卵管に着床する。異所性妊娠では胎児が成長できず、妊娠を継続できない。出血や痛みといった症状が出ない人もおり、妊婦の生命の危険を伴うことがあるため、妊娠5週頃に医療機関を受診し、異所性妊娠をしていないかどうか、確認が必要。
・胞状奇胎(ほうじょうきたい)
精子と卵子の受精の異常(発生原因は明らかになっていない)により、絨毛が異常に増殖して水ぶくれのようになること。妊娠数約500回につき1回の割合で見られると言われ、超音波検査や血液検査、尿検査で診断する。胎児は正常に成長できないため、子宮内容除去術を行う。
〈妊娠の経過〉
・妊娠初期:妊娠15週6日まで
妊娠5〜6週で胎児の心拍が確認できる。妊娠8〜11週になると普段は鶏卵大の大きさの子宮が握りこぶし大になり、急激に子宮が大きくなったことで、膀胱が圧迫され、尿の回数が増える人もいる。妊娠6週頃からつわりが始まる人が多いが、まったくない場合もあるので、一概には言えない。胎盤はまだ完成しておらず、妊娠10週未満は胎児側要因の流産の危険性が高い。
黄体
卵胞(卵巣で排卵まで卵子を育てる球状の組織)から卵子が飛び出した後に残る抜け殻のこと。黄体からはプロゲステロン(黄体ホルモン。2種ある女性ホルモンのひとつ)が分泌される。受精卵が着床しなければ、黄体はやがて白体となり消滅する。