風俗店に勤める女性が客との間で妊娠し、子どもを遺棄したというニュースが報じられた。こうした事件は後を絶たず、女性を責める声ばかりが大きくなっている。中には路上で出産せざるを得ないまでの状況に、女性たちを追い詰めたのは誰か? 風俗で子ども妊娠するとはどういうことなのか?
赤ちゃん遺体遺棄事件の裏にあったのは?
2023年7月21日、愛知県常滑市で今年4月にマンションの共用トイレ内で出産した赤ちゃんの遺体を実家の庭に埋めた罪に問われた29歳の女性に対し、名古屋地方裁判所が有罪判決を言い渡した。
報道によると、法廷の中で裁判官は「風俗店で避妊をせずに妊娠したうえ、出産後周囲に相談もしていない。短絡的な犯行と指摘せざるを得ず、酌むべき事情はない」と指摘。他にも「遺体をタオルに包んだだけで、ごく浅い穴を掘って埋めた行為はみずから産んだ赤ちゃんを弔う気持ちがない」(裁判官)、「無責任で、悪質というほかない」(検察官)といった意見もあったという。
しかし、それらはあまりにも彼女が置かれた状況に理解がない言葉だと言わざるを得ない。被告人の女性は大学を出て保育士をしていたが、人間関係のもつれから退職。その後は風俗店で働くようになった。避妊せずに性行為をすることもあり、そうするうちに妊娠したという。彼女は一人暮らしで、メンズ地下アイドル(メン地下)に月100万円貢いでいたとの情報もあり、5~6年前からいわゆる「推し」の応援に金を使い、自らは携帯代や光熱費すら払えず、家の電気を止められたことが何度もあった。一人暮らしをしていた場所も、その「推し」の活動場所の近くだったようだ。
メンズ地下アイドルらは、ホストクラブの従業員のように女性たちに色恋営業(本気で恋愛しているように思い込ませて女性に金を使わせる手法)をかけて金を使わせたうえ、中には一人のファンにCDを1000枚購入させたり、チェキ撮影会などの名目で利益を上げたりすることもある。そんなメン地下が色恋営業で女性に近づき、親元や友だちから引き離して近くに住まわせること、将来一緒に暮らそうなどと言って期待させておいて、風俗店などでより多くの金を稼いでくるように働きかけることはよくある話だ。
女性から金を巻き上げる「メンズコンカフェ」
さらにメンズ地下アイドルのマネジメント事務所は、JKビジネスの規制後に登場した「コンカフェ」(コンセプトカフェ : 特定のコンセプトに合わせた衣装や内装で、女性従業員が飲食以外のサービスも提供する店)や風俗店とつながっていることが少なくない。なぜなら少女や女性に所属のメン地下に貢がせたり、「メンズコンカフェ」(メン地下たちがホスト役をつとめるコンセプトカフェ)で多額の金を使わせたりしたうえで、コンカフェや風俗店を紹介して彼女らを働かせるというのが新たな性搾取の手口の一つだからである。
23年4月、東京・新宿歌舞伎町にあるメンズコンカフェの従業員の男が、風俗営業法違反で逮捕された。男は18歳の少女2人に声をかけてつながり、一人の少女は性売買で稼いだ9カ月分の売り上げ約50万円を、もう一人の少女は約5カ月間で30万円のシャンパンを含む約33万円をこの店で使わされていた。この店は21年7月にオープン以降、月々1000万円ほどの売り上げがあり、警察はそのうち8割程度を20歳未満への酒類提供などによるものとみている。
5月に摘発された歌舞伎町の別の店では、16歳の女子高校生を2度にわたって午後10時以降に入店させ、1本40万円のシャンパンを頼ませるなどして、約85万円を請求したことで店長や従業員が逮捕された。
また、1月にはメンズ地下アイドルの男2人が警視庁に逮捕される事件もあった。彼らはそれぞれのファンだという2人の17歳少女に対し、18歳未満と知りつつわいせつな行為をした疑いをもたれている。被害は複数回にわたり、少女2人はどちらも自分が「推す」容疑者に恋愛感情を抱き、「推し活」としてグッズ購入などに約50万円、約300万円を使ったと報じられている。
このように少女たちへの性加害に対して、警察も少しずつ動くようになってはいる。とはいえ中学生の少女がメンズコンカフェで50万円を使わされ、その支払いのため性売買させられていた事件でも店の男は「少女と性行為をした罪」でしか起訴されず、未成年者と知りつつ多額の金を使わせたり、色恋営業で詐欺を働いたり、性売買に誘導したりということでは捕まえられていない。少女たちが体を売ったり、大金を使うことも「彼女たちが自分の意思でやったこと」と責任のがれができる構造を、メン地下やコンカフェ経営者、性売買業者らが作っているのだ。
今回の事件においても、当のメンズ地下アイドルやその所属事務所が警察から事情聴取を受けた。しかし、特に問題にはならなかったとのことである。
お金がないと彼との関係を維持できない
常滑市の事件で被告人の女性は妊娠に気づかず、「毎年夏バテするので、今回も夏バテかなと思っていた」と供述したという。妊娠に気づくこともできない状態だった彼女が、共用トイレの中で一人きりで出産した。どれだけ怖く、孤独だったか想像するだけで胸が痛む。
そうして生まれた赤ちゃんは死産だった。捜査関係者によると、赤ちゃんの体重は2000~2500gと新生児の平均体重より軽く、早産だった可能性もあったという。「生理が来ないな」と思った時に、いち早く病院へ行けていたら女性は産む/産まないの選択ができ、赤ちゃんも亡くならずに済んだ可能性もある。でも彼女には病院へ行けるだけの金も、健康保険証もなかったという。
法廷での「誰かに連絡しようとは思いませんでしたか?」との問いに、「自分の中でも何が起こっているか分からず、携帯料金も支払えていなくて、連絡できる状況ではありませんでした」と答えた彼女。病院を受診することもできず、相談できる人もいない中、突然の出産で死産となってしまった。彼女は死体遺棄で有罪となり、決して赤ちゃんを殺害したわけではないけれど、ネット上では「子どもを殺した」と誹謗中傷されている。
当時の生活状況について、「自分の趣味にお金を使い、電気やガスも止まっていた」とも答えている。そうした彼女の金銭感覚を責める声も多く上がっているが、その前に背景にも目を向ける必要がある。
ホストやメン地下などに色恋営業をかけられ、「キミのことが好き」「大事だよ」などと騙される中で、女性が「お金を使わないと彼との関係を維持できない」「もっと頑張らないと彼に嫌われてしまう」と考えたり、その男性を応援することだけが自分の生きがいのように感じたりすることはよくある。彼女についても、自分の生活より「推し」の男に金を使うことを最優先しなければという思考になっていたのかもしれない。
本人は「趣味」と言ったとしても、本当にそうなのだろうか? ホストクラブやメン地下、メンズコンカフェなどでの散財を「推し活」「趣味」とメディアも報じることで、少女や女性たちに「趣味だから」「好きでやっていることだから」と納得させ、自己責任を内面化して性売買に自ら向かうよう誘導する。これは、洗脳による搾取の手口でもある。
彼女は「流されて」犯行におよんだのか?
虐待があったり、頼れる家族がいなかったり、生活費がなかったり、とさまざまな事情を抱えて性売買せざるを得ない状況にある女性は多くいる。そして、性売買に染まると「癒しが必要だ」とホストクラブやメンズコンカフェに誘われる機会も多くなる。性売買に関わっていなくても、初めは「お金を使わなくていいから」「初回は1000円だけだから」などと、街やSNSで業者の男たちが女性に声をかけてくる。