「女子高生を買いたい客と、儲けたい店の利害関係が一致している。巧みな手口で中高生を取り込み、子どもの性が商品化され、安く(値段の問題ではないが)売られている」とし、少女の気軽さ以上に、JKビジネスを通して少女を買う大人の気軽さや抵抗感の希薄さにこそ注目すべきだ。
こういう報道があるたびに悲しくなる。被害に遭った少女たちが、報道によってまた傷つけられていることが悔しい。児童買春や子どもへの性暴力の問題が、「少女売春」や「援助交際」などの言葉で、積極性のある明るいものであるかのように、時に少女たちのアイデンティティーであるかのように語られ続けてきている日本社会は異常だ。
児童買春は「援助」や「交際」と呼べるような対等な関係性の中で行われるものではなく、「支配」と「暴力」の関係性で成り立つ。しかし、買春者の中には、性行為を求めながらも、若い女の子を支えているつもりになっている人もいる。また、お金を介することで、子どもへの性虐待や暴力を正当化する人がたくさんいることも活動を通して実感している。そういう人たちは、「売っていたから買った」「売るのが悪い」と、売る・売らない論に話をすり替える。
JKビジネスの経営者やスカウトたちは、ペンネームでJKビジネス関連本を出したり、週刊誌やウェブメディアで記事を書き、世論を作ることまで徹底してやっている。そういう人が「遊ぶ金欲しさに売春し、会社員より稼ぐ女子高生!」などと書くのは何のためかということも、考えてみてほしい。
「売る/売らない」の自己責任で語るのではなく、少女たちの背景や大人たちによる手口や暴力に目を向け、「指導」ではなく「ケア」の視点をもって子どもに関わることが必要だ。
少女たちではなく大人側の問題
今回、この連載を書くために先の朝日新聞の記事を読み返していたら、いつの間にかデジタル版(www.asahi.com/articles/ASK2H51V1K2HUTIL01R.html 有料会員限定記事)の内容が修正されていた。タイトルや配信日時は変わっておらず、修正報告も掲載されていないが、本誌に掲載されていたものとは次の2点が変わっている。
(1)家庭や学校に不満がない「普通の女の子」たちの多くが、金銭目的でJKビジネスに関わっていた実態が明らかになった。 →家庭や学校に満足しているという少女でも金銭目的でJKビジネスに関わっていた実態が明らかになった。
(2)見知らぬ客と性行為をすることについて「場合によってはやむを得ない」と回答した人は28%にのぼり、抵抗感の希薄さが浮き彫りになった。 →見知らぬ客と性行為をすることについて「場合によってはやむを得ない」と回答した人は28%だった。
この記事の内容が変更されたことについて、何の説明もないことに疑問は残るが、読者からの指摘を受けて後日修正されたのではないか。こう変更されるだけでも、ずいぶん印象が変わる。「おかしい」と思った時に、声をあげることの大切さを改めて感じた。
悪意なく、当事者を追い詰めてしまうことがある。その悪意のなさが一番怖くて、深刻な問題だ。しかし批判に耳を傾け、態度を改められる大人がいることは、子どもたちにとっても希望につながる。そういう大人の姿勢こそ、少女たちにも伝えたい。だからこそ、修正したのならその経緯を追記してほしいと思った。そうでなければ、あたかも初めからそういう報道をしていたかのように見えて、いい顔をしたいのかなと思ってしまう。
児童買春事件について、報道で「少女売春」「援助交際」という言葉を使っているのか、「児童買春」という言葉を使っているのかという違いだけでも、印象は変わる。「援助」や「交際」などという言葉で児童買春について語る国は、日本以外にない。日本では、「少女が好きでやっているんだろう」というイメージを持っている人は多い。その決めつけが、子どもたちを苦しめている。
17年3月、内閣府男女共同参画局が、女性に対する暴力に関する専門調査会の調査結果「若年層を対象とした性的な暴力の現状と課題 ~いわゆる『JKビジネス』及びアダルトビデオ出演強要の問題について~」を発表した(www.gender.go.jp/kaigi/senmon/boryoku/houkoku/index_bo0314.html)。
調査には私も協力し、朝日新聞は次のように報じた。
「携帯充電できます――。こんな誘い文句で女子高生らに声をかけ、接客サービスをさせる『JK(女子高生)ビジネス』の勧誘実態が14日、政府の専門調査会による報告書でわかった。無料で食事や宿泊場所を提供したり、既に働いている少女に友人を誘わせたりするなど、抵抗感を弱めて誘い込む手口が多かった。
調査は昨年6月から12月にかけて民間の支援団体などにヒアリングで実施。「無料休憩コーナーあります」「お茶、お菓子あります」などと呼びかけるケースもあった。被害者の背景には、家庭や学校に居場所がない▽経済的に苦しい▽発達障害などの障害がある――という傾向がみられると分析。こうした少女らをスカウトとして雇い、同じような境遇にある少女を勧誘させていた実態も明らかになった」(17年3月16日、朝日新聞朝刊)
政府の調査結果として、実態が取り上げられることは大きな一歩だ。調査では、公的支援に結び付きにくい少女たちに、必要な「衣食住」と「関係性」を与えるふりをして業者が近付くこと、性被害に遭った少女たちが自傷行為や自殺未遂をするなどのケースも後を絶たないのでケアが必要であること、などがまとめられている。読者のみなさんにも、子どもの自己責任で片付けず、大人の問題として考えられる人であってほしい。