選挙を通して煽動される、女性への暴力と差別
2024年7月7日に投開票された東京都知事選挙は過去最多の56人が立候補し、周知の通り現職の小池百合子氏が3選を果たした。様々な話題をふりまいた選挙だったが、特に選挙掲示板に卑猥なポスターが貼られたことは大きな問題となった。
例えば女性が裸でM字開脚をし、乳首と陰部に候補者の男性の写真が貼られたポスターだ。他にも、女性がしゃがんでお尻をこちらに向けている写真に「売春合法化」「性産業で経済活性化」「堂々と事業化できて税収もアップ」と書かれたポスターや、候補者の男性を3人の女性が囲んで肩に手を回したり膝に手を置いたりする写真に「一夫多妻制を導入します」と書かれたポスターなどがあり、候補者の男性はSNSに「こちらのセクシーポスターが東京中に貼り出され、東京の街は地獄と化します」と投稿した(現在は削除)。
このポスターを掲示したのは、前・埼玉県草加市議の河合悠祐(ゆうすけ)候補だ。彼は以前、「ジョーカー(道化師)」を装った白塗りのピエロのようなメークで私たちColabo(コラボ)の活動を妨害しにきたことのある人物で、今回の立候補には私も驚いていた。
Colaboは虐待などで家に帰れない少女や、生活困窮している少女たちが避難したり食事をとったりできる無料カフェ――通称「バスカフェ」を、夜の新宿区歌舞伎町で開催してきた。22年春には、性交(本番行為)を含めた性行為が撮影名目で金銭取引の対象として合法化される骨子案に危機感を持ち、「AV新法(AV出演被害防止・救済法)」に反対して性売買の暴力性を当事者と共に訴えた。
さらに同時期、私が厚生労働省の検討会の構成員を務めた「困難女性支援法」(困難な問題を抱える女性への支援に関する法律)が日本初の女性支援の根拠法として成立。しかし、そのことをきっかけに、同年夏からColaboの活動に対して性売買業者や性購買者等からの深刻な嫌がらせが発生している。
河合候補は市議時代、煉獄コロアキを名乗るユーチューバーらと連み、バスカフェの活動現場へ訪れた。そうして「おたくのようにフェミニストみたいな活動している奴が多いから、男と女の仲がどんどん悪くなります。そうすると、どんどん少子化になってきます。おたくらが男性差別をしているんです。(自分たちは)女性差別なんてしていません。おたくらみたいな活動をしていたら、僕たち女のことを嫌いになると思いますよ」などと叫んだ人物である。その後、彼らには裁判所から接近禁止命令が出された。
少女たちを妨害から守らなかった小池都政
河合候補のポスターの中には、女性が裸で手ブラ(手で胸を隠すこと)をし、陰部が同氏の写真で隠されているものもあり、そこには「AV新法改正」と書かれていた。私たちは、性交を契約の名のもとに合法化することからAV新法に反対しているが、彼らは私たちとは真逆でAV業界への規制緩和等を求めているようだ。
これらのポスターに警視庁が迷惑防止条例違反の疑いで警告を出すと、彼らは慌ててポスターをはがした。守りたいのは「表現の自由」ではなく、女性を性的にモノ扱いし、消費する権利なのだろうと改めて思った。人手が足りないとして、そのポスターはがしを手伝っていたのもまた、バスカフェに一緒に妨害に来ていた別の人物だった。
こうした騒動を耳にすると、Colaboが攻撃を受けていた時点で東京都が一言「少女を守る大切な事業を妨害するな」と釘を刺してくれたらよかったのに――という思いが強くよぎる(当時は都の委託事業としても活動していたので)。私たちは彼らにこれ以上活動を妨害されないよう裁判所に申し立て、接近禁止命令を得ていた。警察にも相談し、次に彼らが来れば刑事事件として対処されるだろうというところまでこぎつけた。しかし都は「危ないから」と私たちの側に活動中止を要請し、歌舞伎町からバスカフェを追い出してしまった。危ないところに少女たちがいるからこそ、私たちがそこに出て行き活動していたのに。
以後、都が事業内容を委託から補助金事業に切り替えたことに伴い、少女たちの個人情報を提供する必要が出てきたため、私たちは補助金の申請をせず、今は市井の方々からの寄付で活動を継続している。少女たちを危ない街に置き去りにはできないからだ。
都が妨害に対して毅然とした態度を取らず、むしろ少女に対する支援活動を辞めさせたことは、当時の小池都政の意向だったのであろうか。Colaboの支援者たちが都の対応に抗議し、そこへ状況説明のため私が顔を出したことについて、都の担当者は「東京都の事業の受託者がその事業について抗議に来るとは」と憤慨し、「契約違反で(委託を)打ち切ることもできる」と威圧されもした。
そのあたりから、妨害者による攻撃もさらに激化。街を歩けば「お前らのことなんて誰も守ってくれねえよ」と言われ、性売買業者から雇われたらしき男たちに取り囲まれることや、少女を買おうとする買春男性から暴力を受けることも増えた。都は「トー横(若者がたむろする歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺)」対策として、形ばかりの「居場所」を作ったり、性搾取や女性差別に対する問題意識を持たない団体に事業委託したりするようになり、いまだに性搾取の構造は温存されている。
ポスターを貼る権利を販売、性売買関係者が活用
今回の都知事選ではNHK党(NHKから国民を守る党)が24人もの候補者を出し、その候補者たちの枠でポスターを掲示する権利を販売したことも問題になった。同党は1カ所の掲示板で最大24枚のポスターを貼る権利を5000円〜3万円で販売した。新宿区新大久保の通称・コリアンタウン入り口の選挙掲示板には、外国人差別を煽動する人物らによるポスターが貼られた。ホストに借金を背負わされ、「売春」させられる少女や女性が多く立つ大久保公園の掲示板には、大量のホストのポスターも貼られた。
「カワイイ私の政見放送を見てね」と、さまざまな女性の顔写真(AI生成画像?)が並ぶ大量のポスターが貼られた掲示板もある。ポスターに刷られたQRコードを読み込むと、課金制の出会い系を装った詐欺サイトみたいな有料SNSに繋がる。風俗店経営者のポスターが貼られている掲示板もあり、どういう人たちが民主主義の崩壊に加担しているかが、よくわかる。
Colaboの活動に対する妨害を煽動する人たちは、性搾取に反対する女性への攻撃を続けながらAV事業者などの性売買業者とつながり、性売買を温存させるための活動を熱心にしてきた。政党を超えた男性議員や権力者たちが、それを陰で支えている。
AV新法が審議されていた時、民間団体へのヒアリングでAV出演被害の実態について意見を述べた私に対し、日本維新の会の国会議員に「仁藤さん、人権っていうけど、これはイデオロギーじゃなくて政治なんだよ」と言われたことと、民間団体として並列に扱われたため私の隣に座っていたAV関連団体の人物が「AVは3000億円規模のビジネスであり、海外にこれを流すわけにはいかない」と主張していたことが何度も思い出される。
人権より金儲け、その考えが広がっていること、その根底に女性蔑視があることが、まさに性売買業者の温存理由であり現在進行している民主主義崩壊の現実だろう。
「炎上系」として持ち上げたメディアの責任
これまでの小池都政の対応は、明らかに人権と民主主義の崩壊を招いている。Colaboを妨害から守らず切り捨てた件だけでなく、関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文を出さないなど、差別を黙認し暴力を肯定するかのような対応をしてきた影響は深刻だ。